「この腕輪とかもいいわね」

……そもそもの目立たないって趣旨忘れてない? そう思いこそしたが、純粋に楽しそうに振る舞う彼女を見れば言えない。

「あ、このマフラーを巻けば顔も隠せるんじゃないかしら」

それに一応、忘れているわけではないらしいのでよしとする。
むしろ問題は――

「これ、格好いい腕輪ね。お揃いでつけるのはどうかしら」
「……でもお高いんでしょう? 財布には優しくないんでしょう?」
「まぁたしかに、そこそこ値が張るわね。魔力の勢いを強める魔石も埋め込まれているみたいだから」

お金のほうだ。こちらばかりは許容できない。
元来の目的は、食料と魔導具の原材料を手に入れることなのだ。

「……そうね、これは諦めようかしら」

それまで、にこにこと明るい表情をしていたセレーナの表情に少し陰りがさす。短めの紫の髪で目元が隠れると、結構落ち込んでいるように見えた。

だが、こればっかりはどうにもならない。
そう思っていたところに、その救いの手は差し伸べられた。

「お値引きしちゃいますよ!! めっちゃ割り引いちゃいますよ!!」

と、さきほどセレーナの姿に頬を染めていた女性店員が申し出てくれたのだ。

「え、いや、でもなんで? いいんですか、そんなの」
「いいんですよ、だって最近はどうせ売れてませんし」

たぶんクロレルの悪政の影響だろう。俺が眉をしかめていると、それに、と彼女は続ける。

「なによりも私癒されちゃいましたから。お二人の関係性に!」
「……え」
「だって、仲睦まじいことがすごく伝わってきます。彼氏さんのために一生懸命な彼女さんも、彼女さんの希望を聞いてあげようとする彼氏さんも、もう最高!
お金がなくても、変わらぬ愛って感じでいいです、とても」

……どうやら、少し変わった人らしい。
早口で喋る彼女の様子に、俺はかつて屋敷に勤めていたメイドのことを思い出す。

似ている、すごく似ている。
ベクトルこそ違うが、彼女も思い立ったら一直線であった。

俺が勝手に少し懐かしく思っているうち、セレーナが割引購入の話を進めていた。

まぁ理由はどうあれ、安くなるなら金欠の俺たちにはありがたい話だ。


そうしてセレーナによる、衣服選びは再開となる。
結果として、彼女が選んだものと同じ少し制服テイストの入ったものだった

「似合ってるわよ、すごく」

セレーナがにっこりと笑顔になってこう褒めてくれる。

「俺としては、着こなせてないと思うけど?」
「いいの。私が似合うと言ったら、似合うの。格好いいわよ」

いつもクロレルと比較され、平凡だとか庶民ヅラだとか揶揄されてきた俺だ。
見た目を褒められて慣れていないので、かなり照れくさかった。

返事が思いつかず、こめかみを掻く。

「お二人とも、とってもお似合いです!! もう最高です、最高のカップルですよ!!」

……そんな様子に、一連のやり取りを見ていたらしい店員さんが、なぜか一番興奮していた。

まじで、なぜ。

「ていうか、カップルじゃないけどいいの」
「いいの。実質それ以上でしょ。毎日一緒に寝てるんだから」
「こら誤解を招く言い方はやめなさい」

とにもかくにも、無事に新しい服を購入することができたのであった。