これにて一件落着、ほっと息をつけるかというと……それほど単純ではないことは、承知していた。

「応援が来る前にとっととここから逃げようか」
「……結局こうなるのね。まるで犯罪者ね」
「まあクロレルのバカの作った悪法の下じゃ、実際そうらしいからな」
「そうね、あの大バカ者のクロレルね」
「言えるようになったら、めちゃくちゃ言うなぁおい」

俺たちはそうこう話しながら、急いで荷物や売上金をまとめる。
最後に一応、いくつかの屋台を『有形生成』で綺麗に整備してから、屋台街を後にした。

せめてもの詫びがわりだ。

「あなたって実はお人よしよね」
「実は、ってのが余計だよ」
「誉めてるんだからいいじゃない。それより、早くお買い物行きましょ」

顔を見られていないとはいえ、姿格好は割れてしまった。
もし買い物客や店主たちがあの連中に脅迫されて、俺たちの特徴を吐けば、また面倒ごとに巻き込まれる危険性もある。

そのため俺たちは中心通りへと向かうと、まずは衣服屋へと入った。
とりあえず、着替えを行うことにしたのだ。

貴族の子息として訪れていた時は街で買い物をしても、財布を気にすることはなかったが……今は事情が違う。

まず目をやったのは、値札だった。二人、ほっと安堵の息をつく。

「どちらかと言えば、庶民派のお店ね。値段が良心的よ」
「うん。これなら手が届くな。……でも、お嬢様としてはもっといい服がいいか?」
「いいえ、私はどちらかと言えばドレスは嫌いよ。うっとうしいもの」

彼女はそう言い切り、店を一周すると、すぐに衣服を決める。
このあたりも、もしかしたら例の『勘』がびびっと働いたのかもしれない。

むしろ俺よりも早い。
試着室から出てくると、あら不思議。もはや別人の風貌になっていた。

チェック柄を基調としたブレザーに、スカート。腰のところには飾りのベルトがついた、少し学生風の服だ。顔が隠れるように、つばの長い帽子をかぶっている。

「どうかしら。これなら、馴染めそうでしょ」

セレーナは帽子を少し深めにして、ふふっと得意げに鼻を鳴らす。

分かっていたことだけれど、どうしても馴染めそうにない。なにをやっても、図抜けて美しいのだ。
横から俺たちを見ていた女性店員さんも、「わぁ」と声を上げて頬を染めている。

「いや、まぁその辺を歩いてたら確実に目立つわ、うん」
「……あら、そうかしら」
「とりあえず、上からコート着てた方がいいよ」
「そう言うなら、そうするわ。じゃあ、次はあなたの分ね。私に任せて」

セレーナは、買い物ができたことで上機嫌になったのか、うきうきとした様子でさっそく店内を歩きだす。

「ちょ、俺はなに着たって変わらないからいいよ、自分で選ぶし」

なにせ、いつも平凡な見た目だと揶揄されてきたのだ。服くらいで変わるわけもない。
だというのに、セレーナはもう止まってくれない。

「いいじゃないの。こういうデート、ずっと憧れてたの」
「で、デートって……」
「デートでしょ、どう見ても。私はそう思いたいけど、だめかしら」

彼女は少し腰をかがめると、下から俺を覗きこみじっと目を見つめてくる。
その時点で負けであった。

「……いいけど」

なかば答えさせられるみたいに、言ってしまう。

そうしてセレーナに腕を引かれながらの、衣装選びが始まった。