「おい、お前たち! こいつらは俺たち『特別警ら隊』に盾突いたんだ。もうやっちまっていい。牢屋なんて生ぬるい場所じゃなく、地獄に送ってやるとしようぜ!」

リーダー格らしい男の号令で、赤い服を着た5人組はそれぞれ武器を抜いて俺たちの営んでいた屋台の周りを囲む。

俺は後ろの壁に背中をつけるとすぐにナイフを抜き、セレーナをかばうように腕を広げた。

「私が招いたことだもの。私もやるわよ」

が、彼女は守られてばかりいることをよしとするお姫様ではない。
護身用の短刀を抜いて、やる気は十分と見えた。

この連中をまとめて倒すこと自体は難しくなさそうだったが……彼女の気持ちを汲んでもやりたかった。
俺は両手でナイフを持つと、まっすぐに構える。

「そう言うなら、手伝いをお願いするよ」
「うん、任せて」
「おいお前ら。びびるな、どうせ二人じゃなにもできやしないんだ!! まずは女から崩せ!!」

特別警ら隊の連中は、ただのごろつきではないらしい。
弱点を突くためだろう、迷わずセレーナの首を狙ってくる。

……が、やはり致命的に遅い。誰が、とかではなく全員だ。

俺はそいつらの動きをよく見極め、ひと薙ぎでそれらをいっぺんに切り落とす。
込めたのは風魔法、ナイフの長さを『縮突』により伸ばし切れ味も上げた。

そうすれば、たとえ鉄でも簡単に砕ける。
彼らは己の得物が壊れたことにも気づかないままそれを振り下ろす。

「水よ、生命を与える水よ。その清き力でこの身を守れ。『守水陣|《しゅすいじん》』!」

そして棒切れになったそれが、セレーナの張った水の防御壁に簡単に阻まれた。

「な、なんだと、水属性の魔法!? まさか、お前たち貴族出身!? しかも、なんだ、どうして武器が……!!」

連中たちは茫然と、使い物にならなくなった己の得物を見つめる。そんななか、一人諦めていないのはリーダー格の男だった。

「ははっ、面白い! だが私とて貴族のはしくれ! 俺の土でお前の水くらい砕いてやるっ!!」

土属性魔法を纏わせた剣で放つのは、『土波動|《つちはどう》』。一点集中の勢いで、水の盾を貫こうとするが、そこは俺に秘策があった。

守水陣の横手へと俺は、風の魔力を加える。

「な、なんだと……!? 氷……!?」

これにより、互いの魔力が反応し、守水陣は凍り付いていた。
冷気となった魔力は、男の使った『土波動』を伝って、男の全身をも凍り付かせた。ここまで、ものの数秒の出来事だ。

「水と風の反応でできる氷魔法ね……。たしかほとんど同じ割合で魔力を混ぜないと不安定になるのよね」
「うん、だからセレーナに合わせたんだ」
「簡単に言うけどそれ、天才にしかできないことなんだけれど?」
「氷魔法の特性は『維持』。質の高い魔力で食らわせた以上、こいつの氷はそうそう溶けない。さて、と」

俺は、腰を抜かして崩れこんでいた他の隊員に目をやった。
氷の範囲はみるみるうちに広がり、彼らの足元にまで到達する。

「ひ、ひっ……! 助けてくれ、第2部隊……」

あげかけた悲鳴が、そこで途切れた。
全員が、その場で凍り付いたのだ。