正直、気になっていた案件だ。俺が3か月間、必死にクロレルでも政治を執れるようお膳立てしたのである。

その成果がどうなっているかは、ずっと気にかかっていた。
場合によってその出来は、俺のスローライフにも関わってくる。奴が立派な後継者になってくれれば、俺にそのお鉢は回ってこない。

「クロレルの奴、またとんでもない政策を始めたんだ。せっかく、いい兆しが見えたと思っていたのによ」
「……そう、ですか。でも、かなり優秀な側近を雇ったと聞いていたんですが」

実際には俺が雇ったんだけど。

彼らがいれば、歯止めはきく。
そう思っていたのが甘かったようだ。

「いやそれが。自分から頭を下げて雇ったくせに3ヶ月で用無しだと追放したらしい。
 追放された元役人が街で酔い潰れて愚痴っていたよ。聞きゃあ、意見しただけで殺されかけたみたいだ」

なんとも申し訳ない気持ちが生まれる。

彼らが意気揚々と、この街やひいては領土全体を変えようと取り組んでくれていたことを思うと、胸が痛い。

「あの野郎。街の財布を、自分のものだと思ってやがるんだ。また無駄な税金を取るし、使い込む。
 極め付けは、今俺たちが着工させられている公営賭場や屋敷の改築だ。こんなのは、救護所の再建を取り止めてまでやることじゃねぇや」

想像のはるか上をいく無能っぷりだった。

セレーナも、元婚約者であるクロレルの失政の数々にはため息を漏らす。

俺は諦めと徒労感から言葉を失ってしまった。
あれだけなにもしなくても政治が回るように、勝手に評価が上がるようにお膳立てしてやったにも関わらず、これだ。

どうしても自分の思う通りに動かないと気が済まないらしい。

「ほんと、どうしようもないですね」
「まったくだ。おらぁ昔からあんたの方が次期領主になるべきだと思ってたんだがなぁ、アルバさんよ」
「なにを言ってるんですか。俺は俺でどうしょうもないですよ。なんなら犯罪者ですから」
「ハーストンシティで罪を犯して追放ってのは本当だったのか?」
「あぁ何の弁明もなく本当。まぎれもない事実だよ」

まぁそれもクロレルの仕業なんだけど、あえてそれを明かす必要もなかろう。

だというのに、

「はは、冗談だろ? アルバさんのことだ。自由になりたくて自ら嘘の罪でも被ったんじゃねぇか?」

核心とまではいかずとも、それに近いところを突かれるのだから驚いた。
これも親しき付き合いが生み出しうるものなのかもしれない。

「ご想像にお任せしますよ」

俺はこう言って、とりあえずその追及から逃れる。

最後にじっと目を射られこそしたが、彼はふっと口端を綻ばせた。

「そう言うなら、俺の考えたいように思っておくさ。いつか、あんたがトップに立つ日を待ってるぜ」
「いや、そんな日は来ないですから」

こうして、久しぶりの懇話は終わったのであった。