「貴族だというのに、魔法の一つさえ使えない無能とは笑わせるよなぁ。魔法詠唱のメモ帳なんか作ってたみたいだけど、使えないんじゃ意味ねぇなぁ。無能さんよ」
「……うるさい」
「おぉ、怖い怖い。生きてるだけで恥だと言うのに、犯罪まで犯す奴は野蛮で嫌だね。
そんな奴と血がつながっているとさえ思いたくないぜ」
クロレルはお手上げだと言わんばかりにため息をつく。
が、とんだ猿芝居だ。
なぜならば、俺がやったとされている蛮行の全てを行ったのは、実際にはこの男である。
綺麗な容姿に比して、心の底まで腐りきっているのだ、こやつは。
弟である俺の評判を下げることで、嫡男としての自分の地位を確固たるものにしたかったのだろう。
彼が俺の身体を使って行った数々の狼藉は、傍から見ていても容赦がなかった。
問題はなぜクロレルが俺の身体を使うことができたか、という点だが……
これについては、いまだに原因ははっきりとしない。
ざっくりと言えば、摩訶不思議な怪奇現象が起きたのだ。
はじめこそ、こんなことはあるわけがない! デタラメだ! と思ったが、起こってしまった以上は、その現状を受け入れるほかなかった。
2週間前まで俺たち兄弟は、中身が入れ替わっていたのだ。