そんなわけで今日も、朝兼昼ご飯である干し肉(例のクロツキノワの肉が、まだなくならない!)と小麦を薄く焼いたパンを食らって、家を出る。
シャワーどころで顔を洗ったら、やっと一日のはじまりだ。
もう太陽はてっぺんを過ぎている。
「よし、今日もやるか……!」
「やる気満々って感じね。さっきまで、あんなに眠そうにしてたのに」
「いつか完璧なスローライフを手に入れる為なら、働くことだってやぶさかじゃないんだよ。ましにはなってきたけど、正直まだ村に毛が生えた程度だしな。……一日、4時間くらいなら働くさ」
「……短いわね。街の労働者の半分じゃない」
「まあ、なんだ、ほら。根を詰めてやって、途中で挫折するのが一番よくないしね」
俺はセレーナに、働きすぎないことがもたらす素晴らしい効能を語りながら、村を歩く。
向かったのは、集会所になっていた大きな建物だ。
「あ、アルバさんにセレーナさん! お疲れ様でございます!」
中に入ると、作業をしていた男衆から口々に挨拶が飛ぶ。
セレーナはともかく、まだ俺なにもしていないんだけどね。
こうして集まって仕事をしている彼らのほうがよほど、お疲れ様であろう。
「あ、うん。おはよう。いつから仕事をしていたんです?」
「朝からでございますよ。これくらいしか、俺たちにはできませんからね。せめても、救世主もといお二人の力になれればと思いまして……!」
待って、この人たち律儀過ぎない?
高いところに屋敷を構えてふんぞり返ってる貴族たちよりよっぽどいい人たちだと言える。
ちなみにだが、救世主呼ばわりされることにはもう慣れてしまった。
はじめは決め台詞みたいに、
『俺はスローライフがしたいだけなんです、俺の俺による俺とセレーナのためのスローライフが!』
こう言っていたが、村人らはそれでも聞き入れてくれなかった。
『アルバさんは自分とセレーナさんのためだと言いつつ、ここまで村を改善してくれた……。本当に謙虚な方だよ』
『うふ、それを言うなら謙虚というより照れ屋さんって感じ。本当はアルバさんが村全体のことを考えて日々仕事に励んでくれていることを知っているのにね』
ある日、村の女性たちがこんなふうに噂していたのを耳にしちゃった時にはずっこけたね。
だって俺の発言は、謙虚なのでも照れ屋なのでもなく本音だ。
たとえば俺だけの家が綺麗になったって、村の環境全体が改善されないままだと、公共での生活が改善されないから俺は整備を行っている。
それに自分たちだけ裕福になって、村八分に合うのも怖いしね。
「それで、進捗はどうです? 進んでいますか、魔導具たちの仕分けは」
俺は、この仕事場をまとめている例のご老人に尋ねる。
すると、ご老人はにこやかに笑って答えた。
「少しずつ要領も分かってきましたからのう。それも、この磁器をもった探知魔導具のおかげじゃ。すぐれものですな、これは」
「まぁそれももとはゴミなんですけどね」
彼らにお願いしていたのは、棄てられたゴミたちを種類別に分ける仕事だ。
もともとは山ほどあるゴミ山から、毎回適した道具を見つけてきては「有形創成」を利用していたが、さすがに非効率がすぎた。
そこで、村人たちにこうして仕事を振ったのだ。
「それで、セレーナさん。判別のつかない材料も数がたまってきましたから、鑑定をお願いしてもよろしいですかな」
「えぇ、構わないわ」
それを、セレーナも鑑定という形で手伝ってくれている。
元の形がわからないほどに壊れてしまったものであっても、少なくともそれがもともとどんな道具であったかの鑑定はできるらしい。
彼女は魔導具の山の前にしゃがむと、まずは腰に差した巻物を取り出す。
それを地面に広げると、瞑目した。
「世の知をすべる賢者に、その存在の本質を問う。魔導鑑定……!」
そして、詠唱を行うとどうだ。
巻物に光が灯り、字がつむがれていく。
「セレーナさん。なんじゃったのかな、わしら字が読めないんじゃが」
「これは、もともと荷車を運ぶレールだったみたいね。材料は木材、樫木だから丈夫な素材よ」
やっぱ、すごいね鑑定魔法。
自分の知識外のことでも、判別が行える点が本当にずばぬけて優秀だ。
だが、憧れても血統スキルばかりは俺には使えない。
おとなしく、なにか作れる魔導具はないかと吟味をはじめるのであった。
……そうやって、村の放置された魔導具たちの整理を進めていたときだ。
その事件は起きた。
「た、大変でさぁ! アルバさん! ゴミ山のなかになにかワーウルフのような生き物が……! 姉さんが!」
もしかしたら、魔物かもしれない。
俺とセレーナは集会所を、焦る村人について、現場へと急行する。
しかし、そこで見たものは見たこともないもので……。
たしかにワーウルフみたくしっぽは長いが、その特徴である長い角は生えておらず、赤いはずの目は水色、つぶらにさえ見えて少なくとも違う生き物だとは分かる。
そして、心配していたチャコさんは食べられるどころか、「くぅん」と鳴き声をあげるその生き物を心配してさえいた。
「なんだ、この生き物……。知らないぞ、俺」
俺は首をひねるが、横でセレーナが言う。
「……狼ね。これは、その子供よ」
と。
……はい?