それから約1週間ほど。
朝(といっても、例によって昼前だが)、俺が目を覚ましたのは外の扉が開く音でだった。

身体を起こしてみれば、そこには頭にタオルを巻いたセレーナの姿がある。

「あら、やっと起きたの」

うん、なんか毎朝同じことを言われている気がするなぁ、俺。
でも、彼女は決して咎めたりはしない。緊急でなければ、思うさま寝させてくれる。

あれ、もしかして女神?

「おはよう、セレーナ。湯を浴びてきたんだな」
「そうよ。昔は朝から入るのが習慣だったの。それにせっかく、アルバが井戸を直して水まで引いて作ってくれた公衆シャワー。使わないのはもったいないもの」

にこっと笑いながら、彼女は髪をタオルでぬぐう。
そうして彼女用に新しく作ったベッドに腰掛けると、今度は魔導乾燥機を髪に当ててかわかしはじめた。

なんてことのない生活の一コマ、しかしそれがゆえにその美しさは際立つ。
彼女の髪から飛ばされる水滴さえ、きらめいて映るのだ。

あれ、やっぱり女神……?

「これも、作ってくれてありがたいわ」
「え、えっと、なんのこと」
「聞いてなかったの」

いや、そういうわけじゃないのだけど。
見とれて耳半分になっていたことは否定できない。

だがそれを直接言えるほど、俺はキザな人間でもなかった。

「この魔導乾燥機よ。きちんと髪もかわくし、うるおいも残る。こんなものがつかえる生活なんて、クロレルシティを出てきたときは考えもしなかったわ」
「あぁ、それのことか。俺もだよ。乾燥機の残骸が転がってて助かった」
「探せば、街で使ってる道具の大概はあるものね。全部壊れてるけど」

村に公衆トイレを作ってからというもの――。

俺は『有形創成』によりさまざまな生活用具を生み出していった。

といって、無限に魔力があるわけじゃないし、疲れるのは勘弁だ。
そのため、日々ちまちまと整備を進める。

その成果もあり、だんだんとながらトルビス村の生活環境は整いはじめていた。


まず取り組んだのは、衛生環境の整備だ。
大きな設備でいえば、シャワーを浴びる場所も作ったし、発生したゴミを燃やす炉も作った。

一つ一つを作るのにはそれなりに時間を要したが、これらがあるだけで、かなり生活は変わる。
清潔感のある生活が送れるようになり、精神的な負荷はかなり下がっていた。
その原材料が破棄されたゴミだというのは、少し面白い。

いずれは各家にトイレやシャワーを設けるぐらい充実をさせたいところだが、それはおいおいだ。

今はさきほどセレーナが使っていた乾燥機みたいな、「あったらいいな」の小道具を作りながら、住環境の整備を行っていく必要がある。
少なくとも俺は、そんなふうに計画を立てていた。