「まぁ当然の処遇だな、アルバ。お前には下民どもと未開の地で暮らしてるのがお似合いだ」

その声は耳障り極まりない。
せっかく幸福な気分だったのに、一挙に台無しにされた気分だ。

俺は仕方なく、後ろを振り返る。

そこにいたのは、実兄であるクロレル・ハーストンだ。

「……クロレル」
「おっと、ちゃんと敬称で呼んだほうがいいぜ? 忙しい中、わざわざ見送りに来てやったんだからよぉ。
罪を犯して辺境地に飛ばされるお前と違って、優秀なお兄様は主要都市の統括を任されてるんだぜ? はは、1歳しか違わねえってのに、すごい差だな」

クロレルは高い背丈から俺を見下ろして、鼻で笑う。

嫌味ったらしい最低な性格だ。
今だって、追放される俺を馬鹿にする為だけに自分の屋敷からこのハーストンシティまでやってきたのだろう。

だが、こんなんでも社交界においては令嬢からの人気を集めている。

その理由は、彼の圧倒的に恵まれた容姿にある。
無駄なほどに透き通った印象を与える銀髪、やたらと怜悧に見える青色の瞳――。そして、それら全てを完璧に見せる高身長。

父も、今は亡き母も同じ。
腹違いでもない兄弟なのに、俺とはつゆほども似ていない。

髪や目の色こそ同じなのだが全てが異なる。自分で言うのもなんだが、俺はなんの変哲もない超凡人な見た目をしているのだ。

クロレルの横に立って、ただの従者に間違えられたこともあったっけ。

諸事情(・・・)により、もはや自分の顔よりも見慣れたその整った顔を俺はつい睨みつける。

「おぉ、怖いねぇ。これだから野蛮な人間は。それにしても、一般人に暴行を加えるなんて考えられないな。ただでさえ生き恥を晒しているカスだと言うのによ」

黙り込む俺に、クロレルが自慢げに見せつけてくるのは、左手首に浮かぶ炎の紋章だ。

それこそが、18歳になると発現する魔力を持つ証であり、貴族であることの証――。

そのはずなのだが、今年で18歳になった俺に、その紋章はない。