「まぁ、なんていうか簡単に言うと、実は使えるんだよ。公言して下手に持ち上げられると困るから、黙ってたんだ」
「……ねぇアルバ。一応、鑑定させてもらってもいい?」
セレーナはそう言うと、腰元から巻物を取り出す。
彼女の特殊スキルは、アポロン家に伝わる『鑑定』魔法だ。
俺は属性魔法ならば大概を使えるが、一方でそれら固有魔法はその一族にしか操れない。
もしかすると、鑑定士としての血が騒いだのかもしれない。
「いいよ、別に。セレーナに隠しておけることでもないからね。でも無駄だと思うよ」
俺が手を差し出すと、彼女はそれを巻物に触れさせる。
「世の知をすべる賢者に、その存在の本質を問う。魔導鑑定……!」
こう詠唱をすると、巻物に文字が浮かび上がった。
そこに記されていたのは、「なし」の二文字。そう、神官と同時に鑑定士に見てもらったときも同じことが起きた。
「うそ、なんで分からないの」
「……さぁ。でも、使えるのはさっき見て分かったろ? 嘘じゃないんだ。他にも属性魔法なら何種類かは使えるよ」
ほら、と俺が荷物の中から取り出たのはメモ帳だ。
そこには、使えるようになった魔法を属性ごとにリスト化していた。
詠唱が必要な物はその文面を記しており、そうでないものは実際に使用した際の感覚を書き残して、再現性を高めている。
……と言って、そんなに厳密なものではないのだけど。
『縮突』の欄に書かれている説明は、「なんかシュッって伸びるやつ」だけである。
「……すごい考え方ね。でもまぁ少しわかるかもしれない。生きづらいもの、貴族社会」
「ああ、まったくだ。だけど、別の意味で、物理的にここもまともに生活できる環境じゃなさそうだな」
「それをここに来て言っても仕方ないわよ。とにかく、ありがとうね。今のアルバ、格好良かったわ。セリフはともかくね」
「……あ、あぁ、うん。これくらい気にしないでいいよ」
やべえ、無能を演じ続けてきたせいか、褒められ慣れてなさすぎないかな、俺。
まっすぐ言葉にされると今更ながら恥ずかしくなって、前髪を引っ張って目元を隠す。
「そ、そういうセレーナもまったく怖気づいてなかったよな、うん」
小声ながらもなんとか会話を繋げようとしたところで、後ろから「本当に助かりました」と声をかけられた。
タイミングが悪いことこのうえなし!
しかし、仮にも赴任した村の住民との初めての会話になる。俺は咳払いをして、一応は鍛えてきた外面を用意し、とりあえずそちらを振り向いた。
すると、どうだ。そこは地面であるにも関わらず、躊躇のない土下座である。
「そ、そこまでしなくても! 大したことはしてませんから!」
「いや、私たちには到底できないことです。それに、我々のような身分の低い者が貴族様にお助けいただけるだなんて、そうそうありえないことですから」
さしものセレーナも、この態度には俺の横で面食らっていた。
こうなっては、話を伺うことすらやりにくい。
俺はひとまず、彼らに立ってもらうよう促してから、状況を確認する。