「やめて!あたしの大好きな結花ちゃんを悪く言わないで!」
ライトは大声を出した。
「あたし、小さい頃にお父さんもお母さんもいなくなっちゃって、友達もいなくて、でもテレビで結花ちゃんを見たの!結花ちゃんは可愛くて歌も踊りもうまくてしかも一生懸命で、かわいい服とかおしゃなカフェとか、あたしが素敵だなって思うものをどんどん発信してて結花ちゃんはあたしの憧れだった!結花ちゃんの真似してインスタ始めて、大人になったら東京に行って結花ちゃんみたいな芸能人になりたいって思った!こんな性格だから向いてないってわかってるけど、それでも結花ちゃんみたいになりたい……だから、お願い。死にたいなんて言わないで!」
結花はライトの叫びに驚いた。
「結花ちゃんは、芸能界しか世界を知らないって言ってたけど、あたしもっと狭い世界で生きてきたんだよ。きっと世界って広いんだよ。だから、結花ちゃんが生きたいって思えるような世界を一緒に探そうよ」
ライトは泣いていた。
「そうだ、おなかすいてると悪いこと考えちゃうっておばあちゃんが言ってたよ。甘い物食べようよ。コンビニにお菓子買いに行く?東京ってすぐ近くにコンビニあるんだね。あたしの住んでるところって全然コンビニ無いんだよ。でも、今外に出たら騒ぎになっちゃうから出ない方がいいかな?あたし、非常食にお饅頭持ってきたから一緒に食べよう。ね?」
泣きながら支離滅裂な励まし方をするライトに結花は根負けし、つぶやいた。
「じゃあ、1個もらってもいいかな」
「めしあがれー」
「いただきます……」
結花が饅頭をぱくぱくと食べる姿をライトは凝視する。やはり結花は可愛いとしみじみ思った。
「あの、お口にあいましたか?」
「うん。美味しいよ。ありがとう」
「よかった。私、嫌なことがあったら甘い物食べると元気になるから、結花ちゃんにも元気になってほしくて」
「ありがとう。夕子ちゃんは優しいね」
「小町も、甘い物が好きで、一緒にタピオカとか飲みに行ってたんです……」
「あの猫又さん、小町っていうの?猫又さんとは、お友達?」
結花に聞かれ、ライトは今までのことを話した。小町の封印を誤って解いたきっかけから、楽しく遊んだ日々のことまで、順繰りに話す。
「夕子ちゃんもインスタやってるんだ。もしよかったら、そっちの名前で呼んでもいいかな?夕子ちゃんって、同じ名前だからなんだか呼びづらくて」
「ぜひっ!この永久井麗兎っていうのがあたしのアカウントです!」
「へえ、こんな感じなんだぁ。毎日楽しそうだね」
結花がライトのアカウント画面をスクロールする。
「あの、もしよかったら、明日結花ちゃんの1日をあたしに預けてくれませんか?結花ちゃんが生きたいって思えるようになるまで、一緒に過ごしてくれませんか?」
「あたしが、結花ちゃんを色んな所に連れて行くから!」
結花はふふっと笑った。
「ライトちゃんって面白いね。どこに連れて行ってくれるの?」
ライトは冷静になった。よく考えてみたら、結花の方が明らかに東京に詳しいのだ。そして、ライトは東京の地理をほとんど知らない。
「あ、えっと、ごめんなさい!何も考えてないんです!ただ、結花ちゃんに元気になってほしくて!」
「いいよ。サイン会も中止だし、明日もオフなの。私もあんまり友達と遊ぶってことなかったし、気分転換に付き合ってくれるって解釈でいいのかな?」
行き当たりばったりのライトの説得は結果オーライだったようだ。
とりあえず、まずは古着屋に服を買いに行くことにした。ついでに変装用の伊達メガネも仕入れた方がよさそうだ。
初めて来た東京の古着屋でライトは大はしゃぎだ。色々と物色する。
「あたしね、結花ちゃんは赤が似合うと思うの!なんでそう思うかっていうとね……」
声を抑えてはいるが、ライトはいかに印象に残った雑誌やテレビの撮影時の服装が可愛かったかを説明した。
結花もライトに似合いそうな服を身繕い、変装と称したオシャレを完了すると購入した服をそのまま着て街へ繰り出した。
二人でカフェに行って、ケーキを食べる。リンゴがバラの形になったケーキをライトは注文した。結花はモンブランを頼んだ。自慢の一眼レフカメラで写真を撮る。
「おいしい?ここ、私のお気に入りのカフェなの」
「うん!すごく美味しい。リンゴもこんなに美味しく可愛く料理してもらえたらリンゴ冥利に尽きるよね」
ライトの独特な表現に結花は笑う。
「ライトちゃんの食レポいいね。グルメリポーターになったら固定ファンがつきそう」
「やったー!結花ちゃんのおすみつきだ!」
2人でショッピングを1日楽しんだ後は、ホテルに戻った。シャワーを浴びるために着替えを準備しようとしてライトが鞄を開けると、間違って教科書を持ってきていることに気づいた。
「ライトちゃんって真面目?」
「あー、試験期間に色々準備してたから紛れ込んじゃったみたい。そうそう、国語の範囲、ちょうど高遠静月の『黒い夕顔』だったんだよー」
「私の学校と同じだ」
「そうなの? なんか嬉しいな。憧れの結花ちゃんと同じ授業受けてるなんて。あたしは、好きだよ。『黒い夕顔』って魂の叫びみたいなものを感じるの」
「そう?ひいひいおじいちゃんを褒めてくれてありがとう」
「あと、ヒロインがすごく『イイ女』だよね。女性から見ても魅力的。同じ名前の女の子が魅力的に書かれてると自分もイイ女になった気持ちになる! 最期は怖い悪霊になっちゃうけど……。あ、結花ちゃんも同じ名前だよね」
「うん。そもそも私の名前の由来がこの小説からなんだ。お父さんもおじいちゃんもひいおばあちゃんも小説の主要人物からとってるよ。夕子は最後悪霊になっちゃうからイメージ悪いっていうのと、やっぱり『黒い夕顔』より『髪結いと押し花』の方が有名だから芸名は結花にしましょうってマネージャーさんが」
意気投合した2人は夜遅くまでおしゃべりをして、気が付いたら眠っていた。
翌日も2人はライブハウスをのぞいたり、カラオケに行ったりと普通の女子高生のように遊んだ。
店で、ホテルで、SNSで自分の「好き」という感情を多くのリリカルな言葉で表現するライトに結花は惹かれていった。
「ライトちゃんって、「好き」を表現する言葉をたくさん持ってるよね。私、最近は「嫌い」を表現する言葉ばっかりが目についてたの」
公園のブランコに腰かけてレモネードを飲みながら結花が言う。
「ねえ、ライトちゃんいっぱい写真撮ってたでしょう?カメラの写真見せてもらってもいい?」
ライトは結花に写真を見せた。その場の楽しい空気感を切り取ったような写真が並んでいた。そして、順番に画面を切り替えていくと道中の写真に差し掛かる。
「東北の方って自然が綺麗なんだね。行ってみたいな」
結花が初めて、未来への希望を口にした。ライトは嬉しくなって、地元の写真を見せた。
「いつでも案内するよ!」
「本当?じゃあ、私、ここに行きたい。この夕日、とっても綺麗。たぶん、私が見てる世界とライトちゃんが見てる世界はきっとライトちゃんの方が鮮やかなんだろうけど、ライトちゃんはそれをちゃんと私に伝えてくれるから、私も綺麗な世界を一緒に見られる気がするの」
結花が指さしたのは、小町を撮った夕焼けの写真だった。ライトの感性と言葉は、悪意に満ちた言葉で傷ついた結花の心を癒していた。結花には息う希望が見えてきた。
「あたしね、小町を説得しようと思うんだ。地元で一緒に遊んだ小町は楽しそうだったし、復讐にとらわれた小町は本当の小町じゃないと思う」
「どうやって……?」
ライトは秘策を耳打ちした。 夕方、ライトは小町を置いてきた路地裏に結花とともにやってきた。
「小町、ちゃんと話そう」
「イタコこそ話を聞け。この女は死にたがっている。私は殺したい。お前が邪魔をしているんだ」
「ごめんなさい猫又さん。やっぱり私もう少し生きたいです」
「この間格好つけたと思ったら今度は命乞いか?本当に恥知らずで嘘つきな血筋だ」
「小町がお話しなきゃいけないのは、あたしでも結花ちゃんでもない」
ライトは数珠を持った手を合わせて目を閉じる。
「今からあたしが、高遠静月さんを口寄せする」
ライトは大声を出した。
「あたし、小さい頃にお父さんもお母さんもいなくなっちゃって、友達もいなくて、でもテレビで結花ちゃんを見たの!結花ちゃんは可愛くて歌も踊りもうまくてしかも一生懸命で、かわいい服とかおしゃなカフェとか、あたしが素敵だなって思うものをどんどん発信してて結花ちゃんはあたしの憧れだった!結花ちゃんの真似してインスタ始めて、大人になったら東京に行って結花ちゃんみたいな芸能人になりたいって思った!こんな性格だから向いてないってわかってるけど、それでも結花ちゃんみたいになりたい……だから、お願い。死にたいなんて言わないで!」
結花はライトの叫びに驚いた。
「結花ちゃんは、芸能界しか世界を知らないって言ってたけど、あたしもっと狭い世界で生きてきたんだよ。きっと世界って広いんだよ。だから、結花ちゃんが生きたいって思えるような世界を一緒に探そうよ」
ライトは泣いていた。
「そうだ、おなかすいてると悪いこと考えちゃうっておばあちゃんが言ってたよ。甘い物食べようよ。コンビニにお菓子買いに行く?東京ってすぐ近くにコンビニあるんだね。あたしの住んでるところって全然コンビニ無いんだよ。でも、今外に出たら騒ぎになっちゃうから出ない方がいいかな?あたし、非常食にお饅頭持ってきたから一緒に食べよう。ね?」
泣きながら支離滅裂な励まし方をするライトに結花は根負けし、つぶやいた。
「じゃあ、1個もらってもいいかな」
「めしあがれー」
「いただきます……」
結花が饅頭をぱくぱくと食べる姿をライトは凝視する。やはり結花は可愛いとしみじみ思った。
「あの、お口にあいましたか?」
「うん。美味しいよ。ありがとう」
「よかった。私、嫌なことがあったら甘い物食べると元気になるから、結花ちゃんにも元気になってほしくて」
「ありがとう。夕子ちゃんは優しいね」
「小町も、甘い物が好きで、一緒にタピオカとか飲みに行ってたんです……」
「あの猫又さん、小町っていうの?猫又さんとは、お友達?」
結花に聞かれ、ライトは今までのことを話した。小町の封印を誤って解いたきっかけから、楽しく遊んだ日々のことまで、順繰りに話す。
「夕子ちゃんもインスタやってるんだ。もしよかったら、そっちの名前で呼んでもいいかな?夕子ちゃんって、同じ名前だからなんだか呼びづらくて」
「ぜひっ!この永久井麗兎っていうのがあたしのアカウントです!」
「へえ、こんな感じなんだぁ。毎日楽しそうだね」
結花がライトのアカウント画面をスクロールする。
「あの、もしよかったら、明日結花ちゃんの1日をあたしに預けてくれませんか?結花ちゃんが生きたいって思えるようになるまで、一緒に過ごしてくれませんか?」
「あたしが、結花ちゃんを色んな所に連れて行くから!」
結花はふふっと笑った。
「ライトちゃんって面白いね。どこに連れて行ってくれるの?」
ライトは冷静になった。よく考えてみたら、結花の方が明らかに東京に詳しいのだ。そして、ライトは東京の地理をほとんど知らない。
「あ、えっと、ごめんなさい!何も考えてないんです!ただ、結花ちゃんに元気になってほしくて!」
「いいよ。サイン会も中止だし、明日もオフなの。私もあんまり友達と遊ぶってことなかったし、気分転換に付き合ってくれるって解釈でいいのかな?」
行き当たりばったりのライトの説得は結果オーライだったようだ。
とりあえず、まずは古着屋に服を買いに行くことにした。ついでに変装用の伊達メガネも仕入れた方がよさそうだ。
初めて来た東京の古着屋でライトは大はしゃぎだ。色々と物色する。
「あたしね、結花ちゃんは赤が似合うと思うの!なんでそう思うかっていうとね……」
声を抑えてはいるが、ライトはいかに印象に残った雑誌やテレビの撮影時の服装が可愛かったかを説明した。
結花もライトに似合いそうな服を身繕い、変装と称したオシャレを完了すると購入した服をそのまま着て街へ繰り出した。
二人でカフェに行って、ケーキを食べる。リンゴがバラの形になったケーキをライトは注文した。結花はモンブランを頼んだ。自慢の一眼レフカメラで写真を撮る。
「おいしい?ここ、私のお気に入りのカフェなの」
「うん!すごく美味しい。リンゴもこんなに美味しく可愛く料理してもらえたらリンゴ冥利に尽きるよね」
ライトの独特な表現に結花は笑う。
「ライトちゃんの食レポいいね。グルメリポーターになったら固定ファンがつきそう」
「やったー!結花ちゃんのおすみつきだ!」
2人でショッピングを1日楽しんだ後は、ホテルに戻った。シャワーを浴びるために着替えを準備しようとしてライトが鞄を開けると、間違って教科書を持ってきていることに気づいた。
「ライトちゃんって真面目?」
「あー、試験期間に色々準備してたから紛れ込んじゃったみたい。そうそう、国語の範囲、ちょうど高遠静月の『黒い夕顔』だったんだよー」
「私の学校と同じだ」
「そうなの? なんか嬉しいな。憧れの結花ちゃんと同じ授業受けてるなんて。あたしは、好きだよ。『黒い夕顔』って魂の叫びみたいなものを感じるの」
「そう?ひいひいおじいちゃんを褒めてくれてありがとう」
「あと、ヒロインがすごく『イイ女』だよね。女性から見ても魅力的。同じ名前の女の子が魅力的に書かれてると自分もイイ女になった気持ちになる! 最期は怖い悪霊になっちゃうけど……。あ、結花ちゃんも同じ名前だよね」
「うん。そもそも私の名前の由来がこの小説からなんだ。お父さんもおじいちゃんもひいおばあちゃんも小説の主要人物からとってるよ。夕子は最後悪霊になっちゃうからイメージ悪いっていうのと、やっぱり『黒い夕顔』より『髪結いと押し花』の方が有名だから芸名は結花にしましょうってマネージャーさんが」
意気投合した2人は夜遅くまでおしゃべりをして、気が付いたら眠っていた。
翌日も2人はライブハウスをのぞいたり、カラオケに行ったりと普通の女子高生のように遊んだ。
店で、ホテルで、SNSで自分の「好き」という感情を多くのリリカルな言葉で表現するライトに結花は惹かれていった。
「ライトちゃんって、「好き」を表現する言葉をたくさん持ってるよね。私、最近は「嫌い」を表現する言葉ばっかりが目についてたの」
公園のブランコに腰かけてレモネードを飲みながら結花が言う。
「ねえ、ライトちゃんいっぱい写真撮ってたでしょう?カメラの写真見せてもらってもいい?」
ライトは結花に写真を見せた。その場の楽しい空気感を切り取ったような写真が並んでいた。そして、順番に画面を切り替えていくと道中の写真に差し掛かる。
「東北の方って自然が綺麗なんだね。行ってみたいな」
結花が初めて、未来への希望を口にした。ライトは嬉しくなって、地元の写真を見せた。
「いつでも案内するよ!」
「本当?じゃあ、私、ここに行きたい。この夕日、とっても綺麗。たぶん、私が見てる世界とライトちゃんが見てる世界はきっとライトちゃんの方が鮮やかなんだろうけど、ライトちゃんはそれをちゃんと私に伝えてくれるから、私も綺麗な世界を一緒に見られる気がするの」
結花が指さしたのは、小町を撮った夕焼けの写真だった。ライトの感性と言葉は、悪意に満ちた言葉で傷ついた結花の心を癒していた。結花には息う希望が見えてきた。
「あたしね、小町を説得しようと思うんだ。地元で一緒に遊んだ小町は楽しそうだったし、復讐にとらわれた小町は本当の小町じゃないと思う」
「どうやって……?」
ライトは秘策を耳打ちした。 夕方、ライトは小町を置いてきた路地裏に結花とともにやってきた。
「小町、ちゃんと話そう」
「イタコこそ話を聞け。この女は死にたがっている。私は殺したい。お前が邪魔をしているんだ」
「ごめんなさい猫又さん。やっぱり私もう少し生きたいです」
「この間格好つけたと思ったら今度は命乞いか?本当に恥知らずで嘘つきな血筋だ」
「小町がお話しなきゃいけないのは、あたしでも結花ちゃんでもない」
ライトは数珠を持った手を合わせて目を閉じる。
「今からあたしが、高遠静月さんを口寄せする」



