才能の一件以来、ライトは祖母と口をきかなくなった。小町は寝ているライトにいたずらをしたり、ジョークを飛ばしたりとお茶目な一面が目立つようになった。小町なりに、ライトを元気づけようとしているが、小町は素直に励ますような性格ではない。それはライトもよく分かっていたので、気遣いに感謝していた。
上っ面しか見ていない祖母の言うことよりも、小町を信じたいという気持ちが強くなっていた。いっそ家出したいと考えるようになっていた。
「はあ、期末テストが終わったら東京で結花ちゃんのサイン会かぁ。いいなぁ、東京って本当にイベントがたくさんあるんだなぁ」
おやつの饅頭をつまみながら、ライトがぼやく。インスタグラムでは高遠結花の自身初となる単独サイン会が秋葉原で開催されることが告知されていた。
「見習いイタコも行けばいいじゃないか」
「簡単に言わないでよー。おばあちゃんの機嫌が良くたっていけないのに、今喧嘩中だし無理だよ」
「こっそり抜け出してしまえばいいさ。いいじゃないか、たまには旅をするのも。健康な若者の特権だ」
「だって、東京って泊まる場所高いし。交通費ですらギリギリなのに。でも、野宿なんてしたら怖い人に誘拐されそうだし」
「悪党なんて私の妖力があればどうとでもなるぞ。殺さない程度に追い払って、見習いイタコの用心棒くらいしてやってもいい」
小町はいつになく強引に説得をする。ライトは小町の巧みな話術に乗せられ、東京へ行く方に心が傾く。
「ほんとに? いいの?」
「ああ、報酬はその饅頭でいいぞ。前払いだ」
「ありがと小町! 大好き!」
ライトは即座に残りの饅頭を小町に差し出した。小町はそれらを笑顔でぺろりと平らげる。
「美味いな。交渉成立だ」
試験勉強の合間に、こっそりと計画を立てた。祖母は毎朝お堂で祈りをささげているため、その最中にこっそり帰ってまた出かけることが可能だ。最低限の荷物で鈍行を乗り継いで東京に向かえば比較的安価に東京へ行ける。最近ライトは小町と外で遊んでいることが多いので、祖母はライトに友達ができたと思っている。そのため「友達の家に泊まります」と連絡すれば、警察に捜索されることもない。
試験前日、ライトは荷造りをしていた。お気に入りの洋服に、ありったけのお小遣い、非常食、一眼レフカメラ、サインしてもらうためのものや、万が一の際に備えた諸々。出来れば使いたくはないし、使わなくていいと信じたいもの。
秘密の二人旅は信じられないくらいスムーズに進んだ。祖母に見つかることもなく駅まで行けて電車に乗れた。車窓からたくさんの写真を撮った。
乗り継ぎで戸惑った際、人見知りゆえ駅員になかなか電車をうまく聞き出すことができず困ったが、結果的にはライトの小さな声を駅員が聞き取って教えてくれて事なきを得た。
東京に着いた頃には夜になっていた。秋田にはないようなネオン街に驚いた。電車に乗って、明日のサイン会が行われる秋葉原へ向かう。晩御飯は夜遅くまでやっていたカフェに入った。見たこともないようなおしゃれなメニューの写真を撮ったが、東京にいるのが見つかると大ごとなので、SNSへの投稿は帰ってからにすることにした。その後は24時間営業のマクドナルドで仮眠をとった。
そして、運命の朝。ライトはサイン会の会場に向かった。そして、会場に高遠結花がやってくる。朝一番に並んでいたライトはかなり間近で結花を見ることができた。ライトは夢にまで見た生の結花の姿に感動している。
結花が挨拶をしようとしたその時、結花の頭上にある会場の照明が音を立てて壊れた。結花をめがけて、照明が落ちてくる。
ライトは考えるより先に体が動いていた。勢いをつけて結花に体当たりをし、数メートル先に二人で倒れこむ。結花がさっきまでいたところに、重い照明が落ちていた。
「死ね、静月の血はここで絶やす」
小町の全身からはとてつもなく黒い妖気が放たれていた。
上っ面しか見ていない祖母の言うことよりも、小町を信じたいという気持ちが強くなっていた。いっそ家出したいと考えるようになっていた。
「はあ、期末テストが終わったら東京で結花ちゃんのサイン会かぁ。いいなぁ、東京って本当にイベントがたくさんあるんだなぁ」
おやつの饅頭をつまみながら、ライトがぼやく。インスタグラムでは高遠結花の自身初となる単独サイン会が秋葉原で開催されることが告知されていた。
「見習いイタコも行けばいいじゃないか」
「簡単に言わないでよー。おばあちゃんの機嫌が良くたっていけないのに、今喧嘩中だし無理だよ」
「こっそり抜け出してしまえばいいさ。いいじゃないか、たまには旅をするのも。健康な若者の特権だ」
「だって、東京って泊まる場所高いし。交通費ですらギリギリなのに。でも、野宿なんてしたら怖い人に誘拐されそうだし」
「悪党なんて私の妖力があればどうとでもなるぞ。殺さない程度に追い払って、見習いイタコの用心棒くらいしてやってもいい」
小町はいつになく強引に説得をする。ライトは小町の巧みな話術に乗せられ、東京へ行く方に心が傾く。
「ほんとに? いいの?」
「ああ、報酬はその饅頭でいいぞ。前払いだ」
「ありがと小町! 大好き!」
ライトは即座に残りの饅頭を小町に差し出した。小町はそれらを笑顔でぺろりと平らげる。
「美味いな。交渉成立だ」
試験勉強の合間に、こっそりと計画を立てた。祖母は毎朝お堂で祈りをささげているため、その最中にこっそり帰ってまた出かけることが可能だ。最低限の荷物で鈍行を乗り継いで東京に向かえば比較的安価に東京へ行ける。最近ライトは小町と外で遊んでいることが多いので、祖母はライトに友達ができたと思っている。そのため「友達の家に泊まります」と連絡すれば、警察に捜索されることもない。
試験前日、ライトは荷造りをしていた。お気に入りの洋服に、ありったけのお小遣い、非常食、一眼レフカメラ、サインしてもらうためのものや、万が一の際に備えた諸々。出来れば使いたくはないし、使わなくていいと信じたいもの。
秘密の二人旅は信じられないくらいスムーズに進んだ。祖母に見つかることもなく駅まで行けて電車に乗れた。車窓からたくさんの写真を撮った。
乗り継ぎで戸惑った際、人見知りゆえ駅員になかなか電車をうまく聞き出すことができず困ったが、結果的にはライトの小さな声を駅員が聞き取って教えてくれて事なきを得た。
東京に着いた頃には夜になっていた。秋田にはないようなネオン街に驚いた。電車に乗って、明日のサイン会が行われる秋葉原へ向かう。晩御飯は夜遅くまでやっていたカフェに入った。見たこともないようなおしゃれなメニューの写真を撮ったが、東京にいるのが見つかると大ごとなので、SNSへの投稿は帰ってからにすることにした。その後は24時間営業のマクドナルドで仮眠をとった。
そして、運命の朝。ライトはサイン会の会場に向かった。そして、会場に高遠結花がやってくる。朝一番に並んでいたライトはかなり間近で結花を見ることができた。ライトは夢にまで見た生の結花の姿に感動している。
結花が挨拶をしようとしたその時、結花の頭上にある会場の照明が音を立てて壊れた。結花をめがけて、照明が落ちてくる。
ライトは考えるより先に体が動いていた。勢いをつけて結花に体当たりをし、数メートル先に二人で倒れこむ。結花がさっきまでいたところに、重い照明が落ちていた。
「死ね、静月の血はここで絶やす」
小町の全身からはとてつもなく黒い妖気が放たれていた。



