放課後、2人は寄り道をした。ライトの案内の元、商店街の片隅のもはや行列のなくなった小さな店でタピオカミルクティーを買う。スマートフォンで写真を撮ってインスタに「べびたっぴ!お友達とタピオカわけっこだよ!」と投稿した。写真そのものは非常によく撮れているが、都会ではとっくに死語になった紹介文のせいで台無しである。
人通りの少ない場所で、小町にタピオカミルクティーを分ける。お年玉で買った一眼レフカメラを持ってくればよかったと少しだけ後悔した。普段学校からはまっすぐ帰宅しているので撮るものはないと思っていた。けれども、誰かと一緒にいると言うだけでいつもの商店街が輝いて見える。
タピオカを飲み終わった後はカラオケへと向かう。フロントでつい「2人です」と口走りそうになったが、何とか思いとどまれた。部屋に入って最初に歌うのはもちろんノワールマチルダの新曲である。
「さすがに、こんな田舎じゃ本人映像は入ってないよねえ」
ライトは「花」を入れて歌った。小町はリズムに乗りながら聴いている。
「なかなか良いじゃないか。特にこの曲の歌詞やメロディーから感じる世界観は胸に来るものがあるな」
「これね、高遠静月の『髪結いと押し花』が元になってるんだよ。だから、ミュージックビデオ、うーんと、イメージを演じてる女優さんがいるんだけど、それが高遠静月の玄孫の高遠結花ちゃんって子で……」
好きな曲を共有できた喜びに、歌い終わったライトは早口になる。小町が前のめりになって食いついた。
「それは本当か?」
「うん。ネットでは嘘だって書かれてるけど、本人も玄孫って宣言してるし、ちゃんと本当だと思う」
インターネット上では高遠結花のアンチスレが立ち、「高遠結花は偽名。高遠静月の末裔は真っ赤な嘘」とよく書かれていた。高遠結花のアンチはしつこい人間が多く「一人っ子だから甘やかされて性格が悪い」「どうみてもメンヘラ」など言いがかりに近い悪口が掲示板やSNSでよく見られた。
「高遠結花、だったか。写真はあるのか?」
ライトはスマートフォンのロックを解除し、ホーム画面を見せる。ホーム画面はインスタグラムで拾った高遠結花のベストショットだ。
「本物だな。間違いなく血縁者だ」
小町ははっきりと断定した。
「え、なんで分かるの? 小町、すごくない?」
「これでも妖怪だ。勘は人間よりは冴えているのさ」
小町はライトの方を見ることなく言った。
「まあ、そんな話はどうでもいい!この機械は私の生きた時代の曲も歌えたりするのか?」
小町が話題を変えたので、ライトは童謡などを検索し始める。いつもはヒトカラなので長居することは少ないが、今日は夕方まで楽しんだ。
祖母には晩御飯は外で食べると連絡していたので、食事処へと向かう。小町は現代の娯楽文化を楽しんだ後は、現代の食文化に興味津々だ。
「見習いイタコは喫茶店が好きなんだろう?美味い店をたくさん知っているだろうから期待しているぞ」
「うん、でもね、カフェじゃないんだけどすごく美味しいお店があるの」
インスタグラムには投稿していないが、ライトにはお気に入りのお店がある。それは小さな焼きそば屋だった。入店すると隅のテーブル席について、横手焼きそばを頼んだ。まだ夕方の早めの時間なので先客はいなかった。
「ここの写真は撮らないのか?」
「うん。秋田の人間ってばれちゃうから。いただきます」
ライトは手を合わせると、目玉焼きを崩して幸せそうに焼きそばを頬張った。
「やっぱりここの焼きそばが世界で一番おいしい」
「そうか、じゃあ私にも一口くれないか?」
店員の目を盗んで、こっそりと小町に一口分ける。
「ははっ……これはあの時代にはなかった味だな。確かに美味だ。どうやらお前の感性はかなり私に近いようだ」
「ほんと?あたし、ずっと変って言われてきたから……」
「さっき飲んだ飲み物も悪くはなかったし、味覚はおかしくはないだろう。ただ、べびたぴ?だったか?よくわからない言葉を発していたイタコよりは今の自然体のイタコの方が好きだ」
たった1日の道草だった。けれども、この1日は2人の中で大きなものになっていた。
人通りの少ない場所で、小町にタピオカミルクティーを分ける。お年玉で買った一眼レフカメラを持ってくればよかったと少しだけ後悔した。普段学校からはまっすぐ帰宅しているので撮るものはないと思っていた。けれども、誰かと一緒にいると言うだけでいつもの商店街が輝いて見える。
タピオカを飲み終わった後はカラオケへと向かう。フロントでつい「2人です」と口走りそうになったが、何とか思いとどまれた。部屋に入って最初に歌うのはもちろんノワールマチルダの新曲である。
「さすがに、こんな田舎じゃ本人映像は入ってないよねえ」
ライトは「花」を入れて歌った。小町はリズムに乗りながら聴いている。
「なかなか良いじゃないか。特にこの曲の歌詞やメロディーから感じる世界観は胸に来るものがあるな」
「これね、高遠静月の『髪結いと押し花』が元になってるんだよ。だから、ミュージックビデオ、うーんと、イメージを演じてる女優さんがいるんだけど、それが高遠静月の玄孫の高遠結花ちゃんって子で……」
好きな曲を共有できた喜びに、歌い終わったライトは早口になる。小町が前のめりになって食いついた。
「それは本当か?」
「うん。ネットでは嘘だって書かれてるけど、本人も玄孫って宣言してるし、ちゃんと本当だと思う」
インターネット上では高遠結花のアンチスレが立ち、「高遠結花は偽名。高遠静月の末裔は真っ赤な嘘」とよく書かれていた。高遠結花のアンチはしつこい人間が多く「一人っ子だから甘やかされて性格が悪い」「どうみてもメンヘラ」など言いがかりに近い悪口が掲示板やSNSでよく見られた。
「高遠結花、だったか。写真はあるのか?」
ライトはスマートフォンのロックを解除し、ホーム画面を見せる。ホーム画面はインスタグラムで拾った高遠結花のベストショットだ。
「本物だな。間違いなく血縁者だ」
小町ははっきりと断定した。
「え、なんで分かるの? 小町、すごくない?」
「これでも妖怪だ。勘は人間よりは冴えているのさ」
小町はライトの方を見ることなく言った。
「まあ、そんな話はどうでもいい!この機械は私の生きた時代の曲も歌えたりするのか?」
小町が話題を変えたので、ライトは童謡などを検索し始める。いつもはヒトカラなので長居することは少ないが、今日は夕方まで楽しんだ。
祖母には晩御飯は外で食べると連絡していたので、食事処へと向かう。小町は現代の娯楽文化を楽しんだ後は、現代の食文化に興味津々だ。
「見習いイタコは喫茶店が好きなんだろう?美味い店をたくさん知っているだろうから期待しているぞ」
「うん、でもね、カフェじゃないんだけどすごく美味しいお店があるの」
インスタグラムには投稿していないが、ライトにはお気に入りのお店がある。それは小さな焼きそば屋だった。入店すると隅のテーブル席について、横手焼きそばを頼んだ。まだ夕方の早めの時間なので先客はいなかった。
「ここの写真は撮らないのか?」
「うん。秋田の人間ってばれちゃうから。いただきます」
ライトは手を合わせると、目玉焼きを崩して幸せそうに焼きそばを頬張った。
「やっぱりここの焼きそばが世界で一番おいしい」
「そうか、じゃあ私にも一口くれないか?」
店員の目を盗んで、こっそりと小町に一口分ける。
「ははっ……これはあの時代にはなかった味だな。確かに美味だ。どうやらお前の感性はかなり私に近いようだ」
「ほんと?あたし、ずっと変って言われてきたから……」
「さっき飲んだ飲み物も悪くはなかったし、味覚はおかしくはないだろう。ただ、べびたぴ?だったか?よくわからない言葉を発していたイタコよりは今の自然体のイタコの方が好きだ」
たった1日の道草だった。けれども、この1日は2人の中で大きなものになっていた。



