「なあ、見習いイタコ、写真を撮ってくれないか?私は写真に写らないかもしれないが、私たちがまた道を誤りそうになった時、今日を思い出して正しい道に戻れるように」

神社の境内は夕日に染まっていた。ライトはカメラを準備する。

「小町さん、握手しませんか。仲直りのしるしに」

「喜んで」

当然のごとく、小町は写真に写らない。しかし、とても暖かい写真をライトは撮った。

「すごく、優しい写真。小町さんが本当にここにいるみたい」

「ああ、そうだな。やはり、私は見習いイタコの写真が好きなのかもしれない」

 ふたりに褒められ、ライトは照れながら笑みを浮かべる。

「私は見習いイタコと違って、自分がなぜ夕子と名付けられたのかは知らないけれど、もしかしたら私が生まれた時もきっと窓からこんな綺麗な夕焼けが見えていたのかもしれないな」

「きっとそうだよ! 小町は夕焼けの神様に祝福されて生まれてきたんだよ! 小町も、小町と同じ名前のヒロインと同じ名前の結花ちゃんも、あたしもみんなそう! だから、あたしたちは幸せにならなきゃいけないんだ」

 小町の呟きに対してライトは力説する。小町も結花も論理の正当性などどうでもよいと思えた。それほどにライトの写真はライトの言説に説得力を持たせていた。

 翌朝、小町とライトが東京駅から電車で秋田に帰ろうとすると、見送りに結花が来た。

「ライトちゃん! 私、まとまったお休みがとれたら、ライトちゃんの地元に絶対行く! ライトちゃんが写真で見せてくれた綺麗な世界、生で見たいんだ。それまでアンチには負けないよ!だから、また遊んでくれるかな?」

「もちろん!」

 家に帰ると、多少は疑われていたものの友達の家にいたということ自体は疑われなかった。しかし、数日間にわたる外泊と元々の確執の原因であった将来のことについて説教を受けた。

「あのね、ばあちゃんは夕子が心配なんだよ。夕子に何かあったら夕子のお母さんに申し訳が立たないだろう。将来のことだってそう。ばあちゃんは夕子には幸せになってほしいんだ。イタコを継いでほしいっていうのもね、それが夕子の幸せになれる道だと思うからなんだよ」

「心配かけてごめんなさい」

「あら、いつになく素直じゃないの」

「おばあちゃんがあたしのことを心配してくれるのは分かってる。でもね、あたしね、やっぱり卒業したら東京に行きたい」

「まだ、芸能人になるなんて夢を見ているのかい?」

「そのつもりだったけど、あたし夢ができたんだ。写真家になりたいの。この町を出て、いろんなものをみて、自分の好きなものをみんなに伝えたい。それで、誰かに世界ってこんなに綺麗なんだって思ってもらいたいの。そのために、東京に行きたい。東京の写真の専門学校でちゃんと勉強して、ここにないものを知りたい」

ライトは背筋を伸ばして、祖母の目を見ていった。

「確かに、イタコとしての力は誰かを助けられるかもしれないけど、神聖な力だからこそ嫌々なっちゃいけない職業だと思う。だから、お願いです。卒業したら、あたしを東京に行かせてください!」

ライトは頭を下げた。許可を得るまで頭を上げるつもりはない。

「ふうー、人見知りであがり症の夕子が芸能人になりたいとか、ノープランで東京に行きたいとか言い出した時は心配したもんだが、夕子なりに色々考えていたんだねえ。ちょっと夕子のお母さんに似てきたね」

やれやれ、と祖母が笑う。

「頑張ってみなさい。帰る場所はいつでもちゃんとここにあるって忘れないでおくれよ」

「おばあちゃん、ありがとう!」

祖母はライトの真剣な気持ちを理解した。ライトは祖母に抱き着いて感謝を述べる。

「お母さんたちにもちゃんと報告してきなさい。口寄せして伝えるんじゃなくて、今日はもう遅いからお墓に行って伝えて来るんだよ。疲れただろう。今日はゆっくり休みなさい」

「はーい!」

 ライトは自室に駆けこんだ。足音に反応した小町が顔を上げてライトをまじまじと見つめる。

「小町!おばあちゃんがね、あたしの夢、応援してくれるって!今からお祝いパーティーしようよ!」

「かえって来て早々元気だなぁ。もう夜だぞ。しかし、よかったな……“夕子”」

「え、今、あたしの名前……」

「イタコにはならないのだろう?私の代わりに、夢をかなえてくれ。精一杯応援するよ、夕子」

 小町は穏やかな顔で笑った。

「小町……大好き!」

 ライトはそういうなり、小町を強く抱きしめる。

「夏なんだから抱き着くな、暑いじゃないか」

 呆れたように言いながらも小町はまんざらでもないという表情でライトの腕の中特に抵抗することはなかった。