そして投函しようと決めた今日のお昼前、駅近くの喫茶店に入店していた。

 メニューに一通り目を通し、最終的に注文したのはハヤシライスだった。

 ハヤシライスはあの喫茶店にもあり、嫌いではないけれど、そのころはハヤシライスを食べるならカレーライスを食べるという思想で何となく頼まなかった。

 大人になったらハヤシライスの美味しさを理解し、あのコクや香りを楽しみたい時や味の強いカレーを食べたら負けそうな気分の時はお世話になっている。

 ここは戸建てで面積のある、落ち着きのある茶色を基調とした、ポピュラーで整った喫茶店。いかにもな作りだけど、クリーム付きのトーストやロカボを意識したスイーツなどがあり、現代に適応する部分が見られる。

 届いたハヤシライスは華やかなコクがあって、さらりとした舌触りの、安定感のある味だった。量も腹八分目くらいでちょうどよかった。

 食べ終えてから、手紙の封筒に封をして、宛名を書く。
 局留めで住所はわからない。ここに書く電話番号も繋がらない。母も連絡を取っていないらしい。

 投稿は残っているけど、果たして受け取ってもらえるだろうか。
 これを送ることで気になっているのは、プレゼントを送ってくれる時に差出人の住所は書くのかということだ。
 一応こちらから送る手紙には今の住所を書いておいた。

 局留めでもしも本当に受け取りに来ているのなら、この郵便局にはあの人が来ているということだ。

 電車で二駅ほど離れてた場所にある郵便局。気にはなるけど、あの人は素性を明らかにしないところがあった。

 手紙にはいかがお過ごしですか? だとか、ましてや今は何されていますか? なんて探りを入れる言葉は書かず、時候のあいさつと健康を祈る月並みな言葉を残した。

 喫茶店を出て、寒い時間に挟まれた束の間の優しい日差しに照らされながら郵便ポストに向かう。

 その後はライターとして、古民家カフェの町を回る予定があった。

 古民家混じりの町の中、てくてくと歩みを進めていると、熱がこもって汗ばみさえしそうだ。

 今はまだ空気も暖かい。この小春日和は果たしていつまで続くだろうか。消印有効か必着か。小春日和という曖昧な期日指定のおかげで迷う羽目になった。

 ポストの前に辿り着き、一息ついて投函口に向き合う。不備はないか、入れてもいいか。

 答えは決まっている。流すように投函し、押し開けた蓋がカタンと戻って、封筒がガラガラの箱の中を重みに任せて落ちる音がした。