「りくちゃんだよね。先生に頼まれたんだけど、話は聞いてる?」
林はニコニコしながら私の顔を覗き込んできた。
なんで私の名前を知っているんだ。
帰りたい気持ちでいっぱいだったがそれを実行しないのは言うまでもなく親を出されてしまったら多少目をつぶるしかない。
「まあ、勉強しろってことでしょ」
ふてくされたように言う。
私が態度を悪くしておけばそのうち来なくなるだろう。
私に嫌気がさして自分から先生に辞退を申し出るだろう。
私がそんな考えでいることも知らないで私が言ったことにフフと笑いながら席に着き、教科書とノートを開き始めた。
「じゃあ、ここからやろ。まずは課題終わらせちゃわないと」
その一言から私の地獄の時間が始まった。
言われるがまま問題を解き、手が止まれば「大丈夫?」といちいち聞かれる。
分からないと言うのがしゃくで黙っていればわかってるところから説明される。
みっちり2時間。私はこの地獄を耐えることになった。
これがこれから毎日,,,?
たまったもんじゃない。
ずっと監視されているせいでスマホもろくに触れない。
それにイライラして貧乏ゆすりが増えると「わからない?」と聞かれる。
最悪の悪循環だ。
こんなことなら最初からもう少し真面目に授業受けとくんだった。

≪ほんと辛い なんで私ばっかりこんな目に合わないといけないの≫
≪私だって皆と同じように生きたいのに≫

家に帰って一番にそう投稿した。
別に辛くはないし、同じように生きたいとも思っていない。でもこっちの方が同情を誘えそうでしょ。
すると私が投稿したアプリではなくメッセージアプリの方から通知が来た。
林だ。
今日半ば強引に連絡先を交換させられたのだ。

>今日はありがと!分からないところとかあったらいつでも聞いてね~ 明日からもよろしく!

そのメッセージを無視した。
既読だけつけてそのまま閉じた。

≪大丈夫,,,?話ならいつでも聞くよ≫
≪大変だね、私も皆と同じように生きたいよ≫
≪いつでも話聞くから頼ってね≫

こっちの方がいい。
こっちの言葉の方が信用できる。

≪ありがとう,,,≫

この「,,,」結構使える。なんか悲壮感漂って余計に心配されやすい。
その流れで@kirari-000のアカウントを開く。今回は「JKあるある」というネタを投稿していた。
少しさかのぼると「先輩に告白されたJK」という小芝居をアップしていたのでそれをタップする。
昨日アップされているものだった。

見るだけで鳥肌もの。
大根演技の癖に画面に向かって「先輩,,,」とか言って上目遣いでこちらを見てくる。
多分ショップでそろえたのであろうオリジナルの制服もどう考えても似合っていない。
寒気と笑いが止まらない。

≪ほんとにかわいい!≫
≪もう女優さんじゃん!≫

おいおい正気か。
これで女優って。この世の全女優に謝った方がいい。

≪いや、大根演技でしょ 勘違いも甚だしいわ≫

こんなの黒歴史になるだけなんだから、早く気づかせてあげないとね。
いつものように簡単にポンとコメントを投稿する。
すると私の愚痴アカウントの方から通知がなった。
DMが来るなんて珍しい。

>初めまして 私も同じような境遇にいて辛いです 少しお話しませんか?

@hametu.-.からのメッセージだった。