小さな泉だけど、周囲に綺麗な花が咲き誇り、水がとても綺麗に澄んでいて、お伽噺に出て来そうな幻想的な雰囲気がある。
出来れば、この光景を愛でていたいくらいなのだけど、今はそれどころではない。
「ディーネ! この水を汲んで帰れば良いんだよね?」
「そのとおりでち! メルにバケツをつくってもらうのが、よいとおもうでち」
「任せてっ! お兄ちゃん、魔力をもらうよっ!」
ディーネの提案通り、水と相性の良いメルが金属製のバケツを作ってくれるというので、魔力の使用を許可して、大きな物を二つ作ってもらった。
ディーネ曰く、このバケツ一杯分の量でもリアが数日動けるようになるだけの、自然の魔力を含んでいるらしい。
ひとまず、数日あればまた違う策を考えることが出来る!
とにかく、この泉の水を持ち帰るため、二つのバケツに水を汲み、シルフィに降ろしてもらった場所へ戻ってきた。
「シルフィ! すまないが、また頼む!」
「オッケー! みんな、カイに掴まってね! いっくよー……って、重いっ!」
大きなバケツに汲んだ水を二つ持っているからか、シルフィがかなり苦しそうだ。
メルやノエルたちの質量は関係ないみたいだけど、精霊ではないこの水は、思いっきり影響が出てしまっている。
行きはものすごく速かったけど、今は俺が魔法陣で土を動かした時よりは、少し速いくらいだろうか。
だけど、これでは……間に合わない!
「し、シルフィちゃん! 下からヒュージ・スコーピオンが来ているわっ!」
「そう言われても、これが限界……だよっ!」
ノエルに言われて下を見てみると、先程の蠍の魔物が、開けた場所にいて、巨大な尻尾をこっちに向けていた。
シルフィは俺を運ぶことで手一杯だから、先程と同じ様に振動を起こすことはできない。
だから、何か違う手段で蠍をなんとかしなければ!
「……そうだ! ノエル! 土を!」
「え? ……あ! わかったわ!」
ノエルの力で、ただの土を生み出してもらい、それが蠍の上に落ちていく。
これによって稼げた時間はほんの数秒だったけど、蠍の体液を流すことなく、尻尾が届かない所まで離れることが出来た。
しかし、魔物の攻撃からは逃げることが出来たものの、このままでは間に合わないことに変わりない。
水を減らせば、当然速くはなるだろうけど……仕方がない。一つ、捨てるしかないか。
二つ持ち帰ろうとして、一つも間に合わないとなれば、リアが確実に助からなくなる。
日本では、二兎を追う者は一兎をも得ずって言うしね。
「……ん? あれ? 待てよ……兎か」
「お、お兄ちゃん!? どうしたの!? ま、まさかこの状況で、リアさんよりもラヴィさんのことが気になるってことなの!?」
「いや、そんな話ではなくて……みんな。ちょっとだけ協力してもらえないかな? 上手くいけば、すぐにリアの所へ戻れるかも!」