魔物の動きをよく見ながら少しずつ後ろに下がると、狙い通りに進んでくるので、このままいけば、蠍の足が……触れたっ!
その直後、メルの力で蠍の魔物の身体が弾き飛ばされたのだが、今まで相手にしてきたワイルド・ウルフと違い、その巨体故の重さか、それほど勢いがなく、上にあった枝に当たって落ちてくる。
メルが自分で吹き飛ばすよりも、俺が魔法陣を作った方が強力な攻撃が出来るというのに、それでも吹き飛ばせないのか。
「くっ……場所が悪すぎる!」
上がダメなら下……ということで、ノエルの落とし穴が使えれば良いのだけど、この巨体を埋めるとなると、それなりの深さが必要なため、それも使えない。
メルに金属の箱を作ってもらい、その上で倒せば、体液が地中に入ることはない……が、この魔物の巨体を考えると現実的ではない。
「くっ! 俺は……リアを助けたいだけなのにっ! ……リアーっ!」
「お兄ちゃん! ダメぇぇぇっ!」
何をやっても願った結果が得られず、強引に魔物の横を通り抜けようとして……メルの悲鳴に近い声で思い留まる。
恐ろしい事に、魔物も俺が何をしようとしていたのか察していたらしく、少し前まで俺が走ろうとしていた場所に、巨大な蠍のハサミが待ち構えていた。
……そうだ。俺が危なくなると、メルたちが自身の命を削って俺を守ろうとしてしまうんだ。
だけど魔物と戦うことも出来ず、吹き飛ばすことも出来ず、誘導するには時間が無く、強行突破も出来ない。
どうすれば……どうすればリアを助けることが出来るんだっ!?
自身の力の無さに嘆きながら、地面に拳をぶつけると……蠍が反応した!?
そういえば……蠍は目が悪くて、振動で獲物の居場所を察知しているっていう話を聞いたことがある。
異世界の、この巨大な蠍も同じなのだろうか。
「シルフィ。風を起こして、周囲の空気を振動させることはできる?」
「え? できるよ?」
「じゃあ、あの蠍の少し離れた場所の空気を振動させてみて」
「それくらい構わないけど……じゃあ、カイの魔力をもらうよ」
シルフィが力を使うと、巨大蠍が身体の向きを変え、自ら森の奥へと向かっていく。
「やった! 狙い通りだっ!」
「へぇー! カイは物知りなんだ。こんな方法で、ヒュージ・スコーピオンとの戦闘を回避できるなんて、知らなかったよ!」
ヒュージ・スコーピオンの姿が完全に見えなくなったところで、俺たちも前に進み、ディーネの言っていた泉に辿り着く。