「了解っ!」
それから少しずつ高度を下げて行く。
目的地の泉は山の中腹にあるそうで、数多くの木々に囲まれているため、その少し手前にあった少し開けた場所に降ろしてもらった。
随分と小さな泉らしいのでここからは見えていないけど、ディーネがいるので場所は大丈夫だろうと走り出すと……
「カイちゃん! 危ないっ! 下がって!」
後ろからノエルの声が響き渡り、慌ててバックステップで下がる。
その直後、俺がついさっきまでいた場所に、俺の身体よりも大きな尻尾のような物があった。
その尻尾の元に目をやると、俺よりも遥かに大きい、巨大な蠍がいる。
黒く光る身体から、二つの大きなハサミが伸び、地面に突き刺さった尻尾が再び持ち上がると、その先端には紫色に輝く鋭利な針が付いていた。
「でぃ、ディーネ!? これはっ!?」
「ご、ごめんなさいでち! いずみのばしょは、きいていたけど、こんなのがいるなんて、きいてなかったでち!」
「ヒュージ・スコーピオン……蠍の魔物で、尻尾に毒を持っているわ。カイちゃんはもちろん、ディーネちゃんやメルちゃんに、シルフィちゃんも近付いちゃダメよ! カイちゃんから魔力をもらっている私たちがあの毒を受けたら、カイちゃんにも毒が回ってしまうから」
元よりディーネたちを魔物に近付けるつもりはなかったけど、ノエルの言葉でなおさら離れてもらうことに。
とりあえず、魔法陣を作って吹き飛ばしたいのだが、周囲には大きな木々が生い茂っている。
吹き飛ばそうとしても枝にぶつかって落ちて来そうなので……鳥を食材する時に使っているような、メルの力を借りた魔法陣で倒した方が良いかもしれないな。
「ん? 魔物なのに、ボクたちのことが見えるの!?」
「ある程度の強さを持つ魔物は、精霊の気配を察するらしいわ。けど、それより厄介なのが、この場所よ。周囲の土の精霊によると、この場所の地下には、あの泉の水脈が通っているらしいわ。毒を持つ魔物の体液を、リアちゃんに注ぐ水に混ぜない方が良いと思うの」
「つまり、あの魔物を倒すなら、もっと離れた場所へ誘導しないといけないということなの!?」
シルフィと俺の言葉にノエルが応えて頷いたけど、木が沢山生えている山の中で、俺よりも巨大な蠍を何処かへ誘導出来るだろうか。
……いや、出来るかどうかじゃなくて、やるしかないんだ!
リアにはもう時間が無い!
「メル! 魔法陣を作るから、力を込めて!」
「う、うん!」
≪もしも、魔物が触れたら、遠くへ吹き飛ばす≫
いつも堀の近くに作っている魔法陣なので、後ろに下がって大急ぎで書き上げると、メルが力を込めてくれた。