だけど、落ちるのは堀――水の上だから大丈夫なはずだ。シルフィには、水から出たら事情を説明しよう。

「あ、危ないっ! カイ! ボクに魔力を渡してっ! 死んじゃうよっ!」

「いや、落ちるのは水の上だから大丈夫……って、あれ!? そうか! 風で位置がズレたのか!」

 落下地点が水だと思っていたのに、思っていた以上に空の上は風がキツかったようで、このままだと地面に激突してしまう!

「カイちゃん! 土を柔らかく……ダメっ! 間に合わないっ!」

「お兄ちゃんっ! メルたんが受け止めるっ!」

「くぅっ! パパ……おもいでち!」

 ノエル、メル、ディーネがそれぞれ俺を助けようと何とかしてくれているが、

「カイー! 魔力をもらうからねっ! 間に合えーっ!」

 上からシルフィの叫び声が聞こえ……視界がメルの顔でいっぱいになったところで、ピタッと止まった。

「ふぅー。ちょっと、ボクの宿り主さん……魔力の量はすごいけど、行動がメチャクチャだね」

 どうやらシルフィが風の力で俺の落下を止めてくれたらしい。

「シルフィ。呼び出していきなり助けてくれて、ありがとう」

「カイ。人間は空を飛べないんだよ? 何してるの?」

「いや、その通りなんだけど、それを承知で頼みがあるんだ。俺をあの向こうにある山へ連れていって欲しいんだ! 大至急!」

「向こう……って、確かにあるけど、メチャクチャ遠いよっ!?」

「だけど、俺の大切な命の恩人を救いたいんだ! お願いしますっ!」

 シルフィに頭を下げ、木の根元に座らせたリアの状態を説明する。

「どうして、魔力のことを知らずに精霊の力を使うかなー。まぁ今更言っても仕方ないし、状況は理解したよ。結論から言うと、ボクはカイを向こうにある山まで連れて行くことは出来るよ」

 呆れた様子ではあるけれど、シルフィが承諾してくれた。

「ありがとう! 本当に助かるよ!」

「カイ、話は最後まで聞いて。ボクはカイを連れて行くことが出来るけど、風の精霊であるボクからしても、かなりの距離がある。おそらく、日没にギリギリ間に合うかどうかという距離だ。もしも間に合わなかったとしても、ボクは責任をとれないよ?」

「だけど、可能性があるなら、俺はそれに賭けたいんだ」

「……魔力切れの精霊は、霞のように消えてしまう。間に合わなければ、最期の時を看取ることすら出来ないけど、後悔しないね?」

 シルフィの言葉に大きく頷くと、小さく溜息を吐きながらも、わかったと言ってくれた。

 ひとまず、リアを救える可能性が残っていることに安堵していると、困惑した表情のラヴィがやってくる。

「か、カイ先生。さっきから一体何が起こってるん!? いきなり空高くに飛んだかと思ったら、空中でピタッと止まったりしてたし」

「ラヴィ。ちょっとわけありで、出掛けなければいけないんだ。申し訳ないけど、少しの間この木とリアを守っていて欲しいんだ」

「えっ!? リアって木の精霊やんな!? なんで、こないにグッタリしてるん!?」