「ありがとうございます。文字はもう大丈夫ですが、この辺りに人間族の街や村ってありますか?」

「え? そんなの無いよ? 一番近いところで……どこだろう? 山とかを越えたらあるのかな?」

 えっと、どこを見ても山なんて無いんですけど! 見渡す限り地平線なんですけどっ!

「山……は、あるんだ」

「えっとね、確かあっちに……あれ? そっちだったかな? 何かね、遠くまで行けばあるらしいよ?」

 あれ? もしかして、新しい人生が早速詰んだ?

「えっと、リアさんの……」

「待って! カイ君、これから一緒に過ごしていくんだから、リアお姉ちゃんって呼んで欲しいな」

「え? 一緒に過ごす?」

「過ごしてくれないの? ヤダヤダ! 私、百年以上ずっと独りぼっちだったんだもん! 野菜とか果物とか、植物全般ならいくらでも出せるから、一緒にいてよ!」

 詳しく話を聞くと、リアはこの大きな木に宿った精霊なので、ここから数歩分くらいしか離れられないのだとか。

 時折、木陰を求めて動物がやって来ることはあるけど、当然精霊の言葉を話すことなんて出来ない。

 だから、百年以上も孤独で……あー、それはちょっと可哀想かも。

「リアさんは……」

「リアお姉ちゃんって呼んで欲しいな」

「……リアは、俺が一緒にいると嬉しい?」

「うんっ! とっても! カイ君とお話し出来るんだもん!」

 そう言って、リアが無邪気に笑う。

 見た目は十八歳くらいで、実際は百年以上生きているみたいだけど、これまで他人と接していないからか、中身はすごく幼い気がする。

「わかった。これからリアと一緒にいるけど……」

「わーいっ! カイ君、大好き!」

「リア!? 待って! 話を聞いてっ!」

 喜ぶリアがまたもや頬ずりしてきたので、何とか制して再び真面目な話をする。

「最初に言ったけど、俺の見た目は幼くても、中身は大人なんだ。だから、その……もう少し子供扱いを控えて欲しいかな」

「はーい! えっとー、カイ君は大人だから、ハグじゃなくて……チュー!」

「それも違―う!」

 リアに思いっきりキスされそうになったけど、二回目の人生は、広大な草原のど真ん中でスローライフをすることになった。