「直進しか出来ないけど、今はこれで良いかなって。ノエル、力を込めてくれる?」

「えぇ、いいわよ。えーい!」

 ノエルに土の精霊の力を込めてもらったので、これで魔法陣に乗って移動出来るはず!

 そう考えて、まずは一人で直径一メートル程の半透明の魔法陣に乗る。

「スタート!」

 満を持して言葉を発すると……魔法陣だけが進んで行った。

「え……す、ストップ! じゃなくて、ダウン! ダウン! ダウーン!」

 速度を下げるダウンを連呼すると、段々魔法陣の移動速度が遅くなっていたんだけど……突然ビュンッと、ものすごい速さで地平線の彼方へ飛ぶように移動していった。

「……お兄ちゃん。今の、何だったの?」

「いや、俺が知りたいくらいなんだけどね」

「パパー! もういっかい! もういっかいしてほしいでち! おもしろかったでちー!」

 困惑するメルと俺をよそに、ディーネにはすごくウケているけど、別に俺は笑いを取ろうと思ったわけじゃないんだ。

 普通に魔法陣を止めたかったんだけど……あ! もしかして、俺がダウンって連呼し過ぎたから、速度がゼロよりも少なく――マイナスになって、バグったとか!?

 昔のゲームでも、所持金がマイナスになったら、なぜか所持金が最大になったりするバグがあったよね。

 要は、そういう例外処理なり制御なりがきちんと出来ていないわけで……って、前世のプログラム作りに影響され過ぎか。

 ひとまず、今の失敗を踏まえて、もう一度魔法陣を作る。


≪もしも、「スタート」という言葉を発したら、接地面の土と共に前方へ動き……「ストップ」という言葉を発したら止まる≫


 今回は、先程の魔法陣に、「土と共に」という文言を加え、停止についても記載した。

 これなら、きっと大丈夫なはず!

「ノエル。悪いけど、もう一度お願い。今度こそいけると思うんだ」

「うん。頑張ってね! えーい!」

 ノエルが力を込めてくれたので、再び一人で魔法陣に乗る。

「パパだけズルいでち。ディーネものりたちでち!」

 作った魔法陣の試験をするだけなのに、ディーネが顔を輝かせながら俺の背中へ抱きついてきた。

 いや、期待しているディーネには悪いけど、今度はさっきみたいにはならないから! ……たぶん!

「スタート!」

 今度こそ……と思いながら、発進の言葉を叫ぶと、人が歩くくらいの速度で身体が動き出す。

 よし、成功だ!

「ストップ」

 そういうと、地面がピタッと止まったので、こっちも問題なしだ。