いつもの獣用に仕掛けている魔法陣で十分だと思い込んでしまっていた。
この近くを鳥が飛んでいることは、これまで何度か鳥笛を使っているからわかっていたはずなのに。
「反省会は後にして、とりあえず無事だったニンジンを育ててみようか」
「わ、わかったでち。パパのまりょくをもらうでち」
ディーネが昨日と同じ様にニンジンの芽に水を撒いて行くと、双葉が急激に成長していき、あっという間に見たことの無い葉っぱに育つ。
……日本のスーパーで売っているニンジンは、大抵この葉っぱがカットされた状態だけど、たぶん収穫出来る状態だよね?
あと不幸中の幸いと言うべきか、葉っぱが無くなっている所もディーネが水を撒いたら、再び芽が出て葉っぱが育っていった。
双葉は食べられてしまったものの、どうやら地中の種は無事だったようだ。
安堵しながら一通り水を撒き終えたので、今度は育ったニンジンを抜いていく。
「お兄ちゃーん! メルたんも手伝うー!」
「ディーネもてつだうでち!」
「みんな頑張ってねー!」
ノエルは木の精霊と相性が悪い……というか、土の力を植物に取られてしまうそうなので、応援に徹し、主に俺が抜いていく。
「んぅぅぅ……抜けたーっ! お兄ちゃん! メルたん抜けたよっ!」
「ふにゅぅぅぅ……む、むりでち。このニンジンは、かたすぎでち」
「ディーネは、既に十分過ぎるくらい力を貸してくれたから、大丈夫だよ。ここは俺とメルとでやるから、少し休憩して」
頑張って一本抜いたメルの頭を撫で、手伝おうとしてくれたけど無理だったディーネを宥め、端から順にニンジンを抜いていき……全部で百本くらいのニンジンが収穫出来た。
「パパー。このニンジンは洗うのー?」
「うーん。兎耳族さんたちがどうするかわからないから、一旦このままにしておこう」
「はーい!」
土も葉っぱもついたままだけど、メルが作ってくれた籠に入れ……うん。一気に運ぶのは無理だから、もう一つ籠を作ってもらい、二つに分けて運んで行くことにした。
だけど、堀を出てある程度リアから離れたところで足を止める。
「カイちゃん。もう少し頑張ってくれたら、後は、ママが運ぶわよ」
「いや、違うんだ。昨日のノエルの作ってくれた道を見て、ちょっと思い付いたことがあってね」
「何をするの?」
「まぁ見ていてよ」
というわけで、ニンジンの入った籠を地面に置くと、魔法陣を描く。
≪もしも、「スタート」という言葉を発したら、前方へ動き、「アップ」という言葉を発したら、移動速度を速くし、「ダウン」という言葉を発したら、移動速度を遅くする≫
「へぇー。なるほどねー」