「ありがとう。ラヴィの気持ちはとても嬉しいよ。でも、今日は一旦帰るね」

「まったく……確かにベッドは一つしかないけど、いつも一緒に入ってる水浴び用の浴槽よりかは広いのに」

 いやあの、水浴びの話をぶり返すのは止めておこうよ。お父さんがプルプルしているから。

 もしも俺の年齢がもう少し上だったら、殴られているのではないだろうか。

 若干、身の危険を感じながらも、ラヴィに見送られ、坂を上って穴から出る。

 外は陽が傾いていて……日本的な感覚だと、三時くらいだろうか。

「ふぅ。やっとそとでち。つちのなかは、あまりすきじゃないでち」

 ずっと静かだったディーネが、嬉しそうにしている。水の精霊は土と相性が悪いもんね。

「お兄ちゃん。結局、どういう話になったの? あの大人の兎耳族の人が、ずっと不機嫌だったけど」

「あの人はラヴィのお父さんで、精霊石の力は一晩あれば回復出来るんだけど、ちょっと頼みたいことがあるって言われちゃってさ」

「そうなんだ。頼みたいことって……まさか、ラヴィさんと結婚しろとか!? 早まっちゃダメだよっ!? そういうことは、じっくりしっかり考えなきゃ!」

 メルがなぜか慌てているけど、お父さんは真逆のことを思っていると思うよ?

 ラヴィは十代半ばだって言っていたし、親からするとそんな年齢で結婚なんて早過ぎる……って、それは日本の場合か。

 この世界のことを全て理解したわけではないから何とも言えないけど、もしかして俺の年齢でも成人扱いされたりしないよね? だから、お父さんが不機嫌だった……なんてことはないよね?

「カイちゃん。それより、リアちゃんのところへ帰って良いのかしら?」

「うん、お願い。えっと、精霊の道っていうのを使うのに、何かしなきゃいけないんだよね?」

「カイちゃんは何もしなくても良いわよー。ただ魔力はもらうけどね。というわけで、ディーネちゃんもメルちゃんも、カイちゃんにくっついてー! 置いてかれちゃうわよー!」

 ノエルの言葉で慌ててディーネが飛んできて、いつもの背中……ではなく、俺の胸に飛び込んで来た。

 これは吹き飛ばされないようにしているんだと思うんだけど、それくらい速く移動するってことなのかな?

 俺もディーネをしっかり抱きしめ、メルも俺にしがみ付く。

「準備は良いわね? いくわよー!」

 そう言って、ノエルが後ろから俺を抱きしめると、足下の地面がゆっくりと動き始めた。

 これは……空港や駅にある、いわゆる動く歩道みたいな感じかな?

 歩かなくてもリアの所へ帰れるので、らくちんだと思っていると、その速度が徐々に上がり始めた。

 動く歩道だと、エスカレーターみたいに手すりが付いているけど、当然ここにそんな物はなくて、何も無しにものすごい速度が……って、速過ぎるっ!

「ノエル!? これ……ちょっと怖いんだけどっ!」

「は、はやすぎるでちーっ!」

「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃーんっ!」