「せやせや。というわけで、おとん。この精霊石に火の精霊の力を込めて欲しいんやけど」
そう言って、ラヴィが精霊石の付いた腕輪をお父さんに渡す。
お父さんが精霊石の状態を確認すると、なぜか俺のことを値踏みするように見ながら口を開く。
「ふむ。この精霊石の大きさなら、一晩あれば力を込められるだろう。だが実は今、困ったことが起こっていてな」
「そうなん? 何が起こってるん?」
「うむ。今年は街の方で不作が続いているらしくて、ニンジンがあまり買えていないんだよ。そのため、村で貯蔵しているニンジンの残りが僅かしかないんだ。だがラヴィの話が本当だとすると、カイ君は極めて優れた魔法使いだというではないか」
「せやでー! カイ先生なら、大抵のことは出来るでー!」
「……と、娘も言っているわけだし、どうだろうか。木の精霊の力を使って、百本程ニンジンを作ってくれたら、この精霊石の力を回復しようではないか」
なるほど、そう来たか。
お父さんが交換条件を持ち掛けてきたのはおそらく、ラヴィがすごいすごいって言っているけど、本当か? ってことだ。
精霊石の力の回復については、俺じゃなくてラヴィの頼みなので、断ってもちゃんとやってくれるんだろうけど、いきなりラヴィが結婚宣言したり、一緒に水浴びをしているという話をされたりして、俺の印象が悪過ぎるんだよ。
もしも断ったら、せっかく仲良くなれたラヴィに、近付くなと言われてしまうかもしれない。
ラヴィは押しかけてきて、無理矢理居座ったという経緯はあるものの、一緒に生活している友達だし、こんな形で離れ離れになるのは不本意だしね。
「おとん。なんで、そんなケチくさいこと言うん? 普通に回復してや」
「うぐっ! いや、この少年の実力をだな……」
お父さんの意図に気付かず、ラヴィがストレートに疑問をぶつけているけど、父親としては娘が騙されていないか心配なんだろうな。
「こほん……わかりました。少し時間をいただいて、ニンジン百本をお持ちしますね」
「す、すまないが頼むよ」
とはいえ、ニンジン百本ともなるとリアに相談しないといけないので、一旦帰ろうとすると、ラヴィに止められる。
「あ、カイ先生! せっかくやから泊まっていってやー! 元々ウチが使ってた部屋が空いているはずやし、一緒に寝ようやー」
「ぶはっ! ら、ラヴィ。カイ君にはニンジンを……」
「汚っ! おとん、どうしたん!? 急に噴き出したりして」
いや、お父さんからすれば、いきなり娘が男を家に泊めようと……というか、同じ部屋で寝ようって誘えば、そうなるよっ!
ただラヴィからすれば、俺は弟みたいに見えていて、身寄りのない俺を何とかしてあげようという優しさなんだろうけどね。
だけど出発前に、リアへ今日中に帰ると言った手前もあって、今日は帰ることに。
「カイ先生は変に遠慮するからなー。まだまだ子供やねんから、前にも言ったけど、ウチのことをお姉ちゃんみたいに頼ったり、甘えたりしてえーんやで?」