「すみません。転生……じゃなくて、道に迷ってしまったのですが、街や村ってどっちに行けばありますか?」
ものすごく長い緑髪で、十八歳くらいの少女が木陰で休んでいたので話し掛けてみると、大きな目を丸く見開いて俺を見つめてくる。
だけど、その少女は口をパクパクさせているだけで、声になっていない。
これはもしかして、言葉が通じていないのだろうか。
……って、自動翻訳スキルはおまけしてくれるって言ってなかったっけ!?
でも、女神様がいろいろと失敗したっぽいから、おまけの自動翻訳スキルがなくなっちゃったってこと?
赤ちゃんからやり直しになるなら、ゆっくり時間をかけて、この世界の言語を覚えることも可能だと思うけど、超短期間で、まったく習ったことのない初めての言語なんて、覚えられるのだろうか。
ぶっちゃけ、自分の年齢がわからないことよりも、この年齢で一切言葉がわからない方がマズいよね。
未だに口をパクパクさせている少女に、どうやってコミュニケーションを取ろうかと考えていると、突然少女が立ち上がり、俺の手を両手でぎゅっと握ってきた。
「き、君……凄く幼い子供なのに、どうして私の言葉で話せるの!?」
「え? どうしてって、普通に話しているだけだよ?」
「私の言葉もわかるっ! しかも、イントネーションもすごく自然! すごいっ! すごいすごいすごーい!」
そう言うと、少女が俺を思いっきり抱きしめてくる。
とりあえず、さっきの口パクはこの少女が驚いていただけで、言葉が通じているのか!?
自動翻訳スキルが無いはずなのに、この少女と会話が出来ていることについて確認が必要だが、それよりも、大きな問題がある。というのも、今の俺は小学生くらいに見えるかもしれないけど、中身は三十手前の立派な大人なんだ!
見た感じ、十代後半くらいの少女に抱きしめられるのは、嬉しいけど事案になってしまうっ!
しかも、この少女の背が高いのか、それとも俺の背が低いのか。抱きしめられると胸に……大きくて、柔らかくて、温かい胸に顔が埋もれるっ!
「……ぷはっ!」
「あ! ごめんね! 大丈夫?」
せっかく転生して新たな生を授かったのに、少女の胸で窒息して人生が終了してしまうところだった。
大きく深呼吸して、まずは疑問に思ったことを聞いてみる。
「あ、あの! どうしていきなり抱きしめたの?」
「えへへ。久しぶりに誰かと会話出来たのが嬉しくて、つい」
「久しぶりに……って、君はずっとここにいたの?」
「そうなの! お姉ちゃん……あ、私はリアっていうんだけど、いろいろあってね。こうして、周囲に誰もいないこんな場所から動けなくなっちゃったの。だから、私の言葉がわかる君が来てくれて、本当に嬉しいのよ」
そう言って、リアと名乗る少女が再び俺を抱きしめてきた。
……って、死んじゃうから!