とはいえ、抱きしめながら頭を撫でてくるのはやめて欲しいかな。

「カイちゃん! どうなっているの!? とりあえず、カイちゃんは抱きしめられるなら、ママの方が良いわよねっ!?」

「お兄ちゃん、離れてっ! 何を言っているかはわからないけど、お兄ちゃんを奪おうとする、その獣人を排除するからっ!」

「いや、ノエルまで抱きしめようとしないでよ。あと、メルは怖いから。排除とかじゃなくて、普通にお引き取り願うから大丈夫だよ」

 そもそもメルの言う、奪うっていう表現も違う気がするんだけど。

「カイ。何やったら、ウチの家に来―へんか? そんな大きな家やないけど、カイ一人くらいやったら養ったるで。ウチも一人暮らしやから、カイが来てくれたら寂しくなくなるし、どうや? まぁこれだけ精霊の力を使えるカイやったら、ウチが養わんでも、街に行けばいくらでも……」

 ラヴィが俺から顔を離し、ジッと見つめながら一緒に住もうって言ってきたけど……今、街って言った!?

 街があるの!?

 ラヴィにいろいろ聞いてみたいと思ったところで、スッと蔓が垂れて来た。

「ダメっ! カイ君は私と一緒にいるんだからっ!」

 リアが叫びながら、すごい勢いで蔓から降りてきたかと思うと、ラヴィから俺を奪うようにして、抱きしめてくる。

えーっと、リアはノエルに隠れろって言われていなかったっけ?

「ちょっ、リアちゃん!? どうして姿を見せたのよっ!」

「だ、だって、何を言っているかはわからないけど、その獣人の女の子が、カイ君を何処かへ連れて行ってしまいそうだったんだもん!」

 ノエルの呆れた言葉に、リアが泣きそうな声で応える。

「あ……あぁ。こ、この感じは……まさか精霊なんかっ!? 初めて見たっ!」

 ラヴィが声を震わせながらリアに目を向けているから、思った通りリアはラヴィにも見えているんだ。

精霊も何も知らない、この世界へ来た直後の俺にも見えていたから、当然と言えば当然なんだけど。

「すごい……けど、何でこの精霊だけ姿が見えるんや? 他にも精霊がいるんやろ?」

「この精霊、リアは俺が呼びだした精霊ではないんだよ。この木に宿っている精霊だからだと思う」

「おぉー! そういうことか! 長く存在する木や鉄に精霊が宿ることがあるっていう噂は聞いたことがあるけど、まさかこの木が……って、ちょっと待った! か、カイ!? 精霊を呼び出したって言った!?」

「え? ……い、言ったけど?」

 しまった。この世界のことが全然わかっていなかったけど、精霊を呼び出せることって言っちゃダメだったのかも!

 ノエルたちに確認してから答えるべきだったと反省するが、後の祭りでしかない。

「て、天才やっ! まさか千年に一人と言われる、精霊を召喚出来る魔法使いがいるなんて! カイ……いや、師匠! ウチを弟子にしてくださいっ!」