『あの、師匠って? 僕に師匠なんて人はいないよ?』
師匠というか、姉みたいな存在に、娘や妹、母親みたいな存在の精霊はいるけどさ。
『ほな、その精霊語はどうやって学んだん?』
ラヴィがジト目を向けて来るけど、そもそも俺は精霊語なんて……って、待てよ。
そう言えば、初めてリアに会った時に、俺の精霊語が完璧だって言っていたよな。
俺としては普通に日本語で話をしているだけで、ごく自然にリアたちと話が出来ている。
で、リアがひらがなは読めたけど、アルファベットは知らないって言っていたことから、精霊語が日本語だって結論付けたんだ。
ん? あれ、もしかして、これって……
『ラヴィは、ここに精霊がいるのが見えないの?』
『うん。見えへんで?』
『なるほど』
なにげない会話を振ってみたけど、僅かこれだけの言葉でも、ラヴィの言葉を理解するのに少し間が空き、変なラグみたいなものを感じる。
異世界転生時に自動翻訳は付けてもらえなかったと思っていたけど、リアたちとは日本語で会話が出来て翻訳されていなかっただけで、ラヴィとの会話では発動しているんだ!
あと、これはただの推測だけど、俺の魔力を使って具現化している精霊――ディーネ、メル、ノエルは他の人には見えないのだろう。
だけどリアは、誰かの魔力を使って具現化しているわけではないので、俺に見えているように、ラヴィにも見えてしまう。だから、ノエルは俺とリアに隠れるように言ったのか。
俺は間に合わなかったけどさ。
「ちょっと、カイ。それより、精霊語は誰から学んだん?」
「いや、自然と覚えたんだ。この地で暮らしていこうと思ったら、精霊の力を借りるしかなかったから」
「え? 親とか兄弟とかは?」
「最初からいないんだ」
うん。自動翻訳が掛けられているって認識したら、普通に会話できるようになった気がする。
もしかしたら女神様が、認識できるようにあえてラグを設けていたのかも。
とりあえず、ノエルの意図を汲み、リアの話をせずにラヴィの質問に答える。
一応、嘘は言っていないはずだ。
俺はこの世界では誰からも精霊語……というか日本語を習っていないし、こっちの世界の親は顔すら見たことないしね。
だけど俺の言葉を、ラヴィは変な風にとらえてしまったらしく、なぜかポロポロ涙を流し始めたかと思うと、ぎゅーっと抱きしめてくる。
「ラヴィ!? どうしたの!?」
「どうしたも、こうしたもあらへんやろ! そーかぁ。幼い頃にこんな場所へ捨てられてもーて、一人で生きて来たんか。寂しかったやんな? ウチのこと、お姉ちゃんやと思って、甘えてえーんやで?」
あー……思い返してみると、俺の発言は捨て子と受け止められても仕方がないか。