「うん。極力薄いのをお願い」
「お兄ちゃんの頼みなら、メルたんは何でもするよー! じゃあ、魔力をもらうねー!」
メルが魔力をもらうから抱っこして……と、両手を大きく広げてくる。
今までメルの力を使う時に抱っこなんてしていなかったと思うんだけど、してくれないと鉄板が出せないというので、従うことに。
「お兄ちゃん、行くよ! えーいっ!」
メルに頼んで、ものすごく薄い鉄で、かつ幅が一メートルしかない鉄板を出してもらったので、魔力の使い過ぎで気を失うこともなく、無事に一枚目を堀の内側へ設置できた。
「じゃあ、メル。次はお昼過ぎにお願い。朝昼晩と、時間を分ければ、俺の魔力も回復しているだろうし、いつか完成するはずだからね」
「うんっ! メルたんも、毎日お兄ちゃんに抱っこしてもらえて嬉し……こほん。毎日お兄ちゃんの役に立てて嬉しいし、この方法で進めて行こうね」
一瞬、メルから変な言葉が聞こえた気もするけど、これを毎日の日課として実施することにした。
◇◆◇
それから数日が経ち、メルの出してくれる鉄板で、ようやく堀の一辺を覆うことが出来たというところで、ノエルが突然声を上げる。
「リアちゃん! カイちゃんと一緒に木の上へっ!」
「えっ!? ノエル? 何かあったの!?」
「カイ君! 私もわからないけど、早く来てっ!」
リアも何が起こっているかはわからないみたいだけど、ノエルのただならぬ様子で、ひとまず俺を守ろうとしてくれているのだろう。
だけどタイミングが悪く、俺はメルと共に堀の外側にいたため、すぐにはリアの所へ行けない。
だけど、堀の外から生垣の中へと繋がる道には、ディーネと一緒に作った改良版の魔法陣があるので、そこさえ渡ってしまえば何とかなるはずだ!
そう考え、道を渡って生垣の内側へ入って一息吐いたところで、独特のイントネーションで話す、聞いたことのない女の子の声が聞こえて来た。
『あーっ! やっぱりおったー! いやー、大きな魔力を感じたから来てみたけど、すごいことになってるやん』
なんだろう。この関西弁っぽいイントネーションのせいってわけではないと思うんだけど、何となく、耳から入ってくる言葉と、その言葉の意味を理解するのに若干のタイムラグがあるような気がしてしまう。
例えるなら、日本で外国人から道を聞かれた時に、スマホの翻訳アプリを使うというか、リアたちと話している時のように、自然ではないように思える。
ひとまず声がした方に目を向けると、そこにはオレンジ色の髪から大きな耳を生やした、ノースリーブのシャツに膝くらいまでのスカートという、身軽な格好の少女が立っていた。
どこからここへ来たのかはわからないけど、格好だけ見ると、遠くから来たようには到底見えないんだけど、周りには地平線しか見えないはずなんだけどな。