どうやら狙いは俺のようなので、ディーネに水で吹き飛ばしてもらうか、それともリアに助けてもらうか。

 どちらがより最適かというのを考えていて、ふと気付く。

 なぜかはわからないけど、ワイルド・ウルフの動きがスローモーションに見えているから、どう対処すべきかを頭の中でいろいろと考える時間があって……って、待って!

 これっていわゆる、死ぬ直前の走馬灯ってやつじゃない!?

 つまり俺は、この空中にいるワイルド・ウルフの鋭い爪に切り裂かれたり、この獰猛(どうもう)な牙でかみ殺されたりするってこと!?

 だけど、さっき俺自身が思ってしまった通り、スローモーションは変わらず、はっきりとワイルド・ウルフの動きが見えていて、頭がものすごく早く回転していそうだというのに、身体が少しも動かない。

 俺は、死ぬ……のか?

 死を感じて絶望しかけた瞬間、

「お兄ちゃんに、近付くなぁぁぁっ!」

 メルが大きな鉄球を大砲のように撃ち出し、ワイルド・ウルフがこれまでにないくらい、とんでもない速さで遥か彼方へ飛んで行った。

「た、助かった……のか? メル、ありがとう」

「ううん。当然のことをしたまでだよ。メルたんは、お兄ちゃんに呼びだされて、魔力を分けてもらって、ここに具現化出来ているからね。お兄ちゃんに万が一のことがあったら、メルたんもディーネちゃんも消えちゃうから……消えるのがメルたんだけで良かったよ」

 時間の進み方がスローモーションから普通に戻り、死の危機を回避出来たのだと思って安堵していると、突然メルが変なことを言いだした。

 俺が遺跡で金属を見つけて呼び出したから、ここにメルがいるというのはわかる。

 リアのように、元々あった木に宿ったりしているわけではないから、俺の魔力をもらっているというのも聞いた。

 だけど……

「待った! 消えるのがメルだけで……って、どういうこと!? どうしてメルが消えることになるのっ!?」

 メルの話した言葉の意味がわからず、思わず俺も叫んでしまった。

 そんな俺の傍に、リアが駆け寄って来ると、今メルに起こっていることを説明してくれた。

「カイ君。精霊の在り方が二種類あるっていう話をしたでしょ? 私はこの木の力をもらって自分の意志で力を使えるけど、メルちゃんはカイ君から了承を得て、魔力をもらわないと力が使えないの」

「それは聞いたよ!」

「さっきのメルちゃんはカイ君を助けるために了承を得ず、カイ君の魔力の代わりに自分が具現化するための魔力を使って、あの魔物を吹き飛ばしたの。だから、もうメルちゃんには具現化するための魔力が残っていなくて、あと数秒で消えてしまうの」

 な、何だって!?

 メルが俺の了承無しに力を使ったから、消えてしまう……って、俺を助けるためにやったことだろ!?