メルが侵入してきた魔物たちを何とかすると言ってくれているのだが、メルの力で何とかすると、スプラッターな感じになりそうなんだよね。
その点、魔法陣だとそれぞれの精霊の性格や嗜好とは関係無しに、俺が書いた効果が発揮されるのは良いと思う。
なので、今回も遠慮してもらうと、メルが頬を膨らませ、涙目で俺の顔を見上げて来て……そのまま胸に顔を埋めてきた。
もしかして、泣かせちゃったのか!?
俺としてはメルの力がすごいのは良くわかっていて、すごすぎるが故の別の問題なんだよね。
うーん。メルの背中を優しく摩ってみるけど、顔をあげてくれない。
「パパー、どうするでちー?」
ディーネが困った表情を浮かべて、俺を見つめてくる。
その表情から読み取れるのは、朝と同じ様にディーネが追い払えるけど、そうしたらメルが拗ねちゃうよ? といった感じだ。
だが、そうは言っても、どうしたものかと思っていると、リアが口を開く。
「カイ君。任せてっ!」
一体どうするのかと思っていると、スルスルと蔓が降りて行き、ワイルド・ウルフの身体に巻き付いた。
それから、ゆっくりとワイルド・ウルフの身体が斜め上に持ち上げられ、振り子のように揺られ始める。
徐々に揺られる速度と高さが上がっていき……ビュンッとワイルド・ウルフが遥か彼方へと飛んでいった。
「リア。すごいね」
「でしょ! さっきのカイ君が作った魔法陣を見て、思い付いたの」
リアが再び蔓を動かすと、二体目のワイルド・ウルフを捕らえ、先程と同じ方法で遠くへ飛ばす。
だけどその一方で、残りのワイルド・ウルフが逃げ出してしまった。しかも、俺が設置していた魔法陣を避けるかの様に、リアが作った生垣を簡単にジャンプで飛び越えて。
「あの魔物は、思ったより跳躍力があるんだね」
「そうみたいね。うーん、どうしよう。飛び越えられちゃったら、意味がないよね」
「まぁ、そうだけど……そうだ! じゃあ、垣根の外側に堀を作ると言うのはどうかな。それなら、簡単には飛び越えられないと思うんだ」
さらに、掘った所へディーネが水を張っておけば、より効果が高いと思う。
というわけで、魔物の対策のために垣根の外側を掘ることにして、ワイルド・ウルフが何処かへ行ったのを確認してから、みんなで地面に下りる。
あまりリアの蔦に触れられないメルは、ずっと俺の胸に顔を埋めていたんだけど、突然離れたかと思うと、小さな腕を広げ、大きな声で叫びだす。
「お兄ちゃん! 来ちゃダメっ!」
何事かと思った時には、垣根の向こう側から、ワイルド・ウルフが跳躍して来た所だった。
しまった! 魔物は全て何処かへ行ったと思ったのに、残っていた奴もいたのか!
今にも垣根を飛び越えようとしているワイルド・ウルフは、鋭い眼光を俺に向けている。