「……って、待ってください。十歳の誕生日を楽しみにと言う話でしたが、転生後にこのやり取りを覚えているのでしょうか」
「えぇ。前世の記憶や経験をそのままに異世界へ転生しますので、安心してください」
なるほど。それはありがたい。いわゆる、異世界転生ものの必須項目だもんな。
あとは、自動翻訳と鑑定と異空間収納とかがあると、チート主人公になれそうなんだけど。
「スキルは一人一つまでです。自動翻訳くらいならおまけで付けてあげられますが、鑑定スキルや異空間収納スキルにするなら、先程私が話した、超レアなスキルは無かったことにしますが」
「い、いえ、冗談です! 元々予定されていたスキルでお願いします」
「わかりました。では自動翻訳はおまけしておきますので、最後に転生先の場所について希望があれば教えてください」
「そうですね。日本ではものすごく人が多い都市で働いていて、毎日忙しく帰宅できない日々が続いていました。なので、人が少ない田舎で、のんびりスローライフが送れると嬉しいです」
会社がテレワークを導入してくれなかったがために、朝の地獄の通勤電車に乗り、夜は帰れずに会社で寝泊りすることも多々あって、食事は毎日コンビニ弁当だったからな。
「大変だったんですね。まぁ過労死する程ですし……ひとまず、転生先の座標を田舎にして、零歳から今の記憶が呼び覚まされるように設定しました」
女神様がそう言うと、真っ白だった部屋に黒い穴が現れ、ゆっくりと吸い込まれて行く感じがする。
「そこへ入ると、次の人生です。今度は過労死なんてすることなく、人生を楽しんでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
「いえ。私は依頼されたことをやったまでです。これは前世でのあなたの行いが……あっ!」
「えっ!? 今の、あっ! って何ですか!? ちょっと、女神様!? 女神様ーっ!? ……返事しろーっ!」
俺の心の底からの叫び声も虚しく、黒い穴に吸い込まれ……意識を失ってしまった。

