木の精霊であるリアと金の精霊であるメルは精霊的な相性の悪さのため、俺がメルの敷布団代わりになるという、かなり困った状態で眠った翌朝。

「お、お兄ちゃん! 起きて! 大変なの!」

 メルの慌てた声で起こされる。

「……メル? どうしたんだ? 怖い夢でも見たのか?」

「そういうのじゃないよっ! 下を見てっ!」

 寝ぼけ眼で身体を起こすと、のそのそと……って、ここは木の枝の上だった!

 真下を見て、その高さで目が覚めたのだが、ここへきてメルの言っている意味をようやく理解する。

「あれは、いわゆる魔物……なの?」

「うん。ワイルド・ウルフっていう魔物だよ。魔物は、自然に存在している魔力を取り込んだ獣や虫のことで、いるだけで周囲の自然に悪影響を及ぼしちゃうんだ」

 メルが教えてくれたワイルド・ウルフは、その名の通り大きな灰色の狼で、五体の魔物が木の周りにリアが生やしてくれた野菜や果物を食べ漁っていた。

 魔物はいるだけで自然に悪影響という話だったが、それ以前に作物を食べられているので、既に悪いことが起こってしまっている。

「お兄ちゃん。メルの力を使えば、ここからでも倒せるけど……どうする?」

「具体的には、どんな力を使うの?」

「例えばだけど、金属の塊を出して、狼の上に落とすとかかな」

 な、なんていうか、思っていたのと違って物理攻撃だね。

 いや、何もないところに金属の塊を生み出すなんてことは、しっかり魔法で異世界なファンタジーだけど、後の処理がすごく大変そうだ。

 それに何より、リアが金属を苦手としているのと、メルの提案してくれた方法だと、地面に生えている、まだ食べられていない植物も潰れてしまう。

「別の手段も検討しよう。ディーネ、起きている?」

「おきてるでち。パパー、どうするでち?」

「ディーネの力を借りたいんだ。さっきメルが言ってくれた、金属を落とすという手段は良いんだけど、植物が傷んでしまうから、代わりに水の塊を落としてもらおうと思って」

「りょーかいでち! いくでちっ!」

 ディーネが気合を入れて、水を生み出し……って、さすがにそれは、水の塊が大きすぎない!?

 一旦止めようかと思ったけど、ディーネの生み出した水が五つに分かれ、それぞれ魔物に直撃する。

「ディーネ! すごい!」

「えっへんでち!」

「お兄ちゃん! 魔物が逃げて行くよ! 止めを刺さなくて良いの?」

 メルが追撃を提案してくるけど、俺としては無益な殺生はしなくて良いと思う。

 ……いや、俺の考えは異世界では甘いのかな?

 日本が平和で、魔物がいる世界の考え方とはずれているのか?