「メル。早速で悪いんだけど、この穴を覆い隠せるくらいの、鉄板を出せないかな?」
「大丈夫。じゃあ、お兄ちゃんの魔力をもらうよ?」
「うん。構わないから、良い感じにこの穴を隠せるようにして欲しい」
「うん、わかった。えいっ!」
メルが穴に向かって手を差し出すと、黒い金属の板が現れ……突然、眩暈がし始めた。
何だ!? 頭がクラクラする。立って……いられない!
「ぱ、パパーっ!」
「お兄ちゃんっ! うぅ、やっぱりメルたんのせいだっ! メルたんの力は、魔力の消費が激しいから……お兄ちゃん、ごめんなさいっ!」
貧血を起こした時の様に、突然視界が暗くなり、思わず片膝を突く。
だけど、今の見た目はさておき、伊達に三十年近くも生きているわけではない。
この程度の貧血の症状なんて、古くは小学校の校長先生の長話から、近くは長時間の満員電車通勤で何度も経験済みだっ!
というわけで、しゃがみ込んだまま動かず、しばらくしてからゆっくりと目を開く。
そこには心配そうな表情で俺の顔を覗き込む、青髪のディーネと金髪のメルがいて……よし。色も識別出来ているし、完全に視界が元に戻ったな。
「すまない。もう大丈夫だ」
「パパー! よかったでちー!」
「うぅ、お兄ちゃん。良かったぁぁぁっ!」
とりあえず先程の立ち眩みが、リアの言っていた魔力を使い切った状態か、その少し手前くらいなのだろう。
抱きついて来るディーネとメルの頭を撫でていると、突然ディーネが泣きだしてしまった。
「ディーネ!? どうしたの!?」
「ごめんなさいでち。ほかのみずのせいれいにきいたら、せいれいをよびだして、そばにいるだけで、たくさんまりょくがいるみたいでち」
どういうことか詳しく聞くと、普通の人間は精霊を呼びだす為に必要な魔力すら足りない人が殆どらしい。
他の水の精霊によると、二体も精霊を呼び出せている人間を見るのは初めてなのだと。
「でも、俺は普通の人より魔力が多いんだよね?」
「そのとおりでち。パパのまりょくは、すごいでち」
「だから、大丈夫じゃないかな? 俺もそういう事を知らずに、大きな鉄板を出してもらっちゃったし、これから気を付けるよ」
もう大丈夫だからと、涙を流すディーネの背中をさすり、三人でリアのところへ戻ることにした。
だけど、リアの宿る木まで半分くらいという所で、メルの足が止まってしまう。
「メル? どうしたの?」
「あ、あのね……お兄ちゃん。メルたん、もう歩けない……」
「そっか。結構歩いたもんね」
メルは背が低くて歩幅が短いし、ディーネのように空を飛んでいるわけでもない。