「ううん。大丈夫」
木の精霊と相性の悪いメルが離れてくれたが、それでも何も変化がない。
もしかして、リミットは夜だと聞いていたが、それは推測でしかないので、間に合わなかったということなのだろうか。
いや、違う。本当に間に合わなければ、そのままリアが消えてしまうとシルフィが言っていた。
だから、間に合ってはいるんだ。
だけど、何かが……何か変な状態になっているんだ。
これがプログラムなら、デバッグ作業で、おかしなところを取り除くことが出来る。
でもリアはプログラムや魔法陣ではないから、今のこの現状から推測するしかない。
考えろ……考えるんだ。
「ディーネ、ノエル、シルフィ。この木は問題ないということだけど、リアに何かおかしい所はないかな?」
「カイ。ボクたち精霊は、宿り主が異なる精霊には干渉できないんだ。だから、残念だけど見ただけでわかることしかボクたちにもわからないんだ」
「見ただけでわかること……か。そうだ! 俺は、まだ全然リアのことを調べていない!」
視覚での情報は、リアが眠ったように動かないということだけしかわからない。
だけど、俺に魔力のことはわからなくても、まだ調べられることはあるはずだ。
まずは嗅覚だけど、匂いは特に何も変わりないと思う。
次に触覚。リアの手を握ってみると……冷たい。リアはいつも抱きしめられた時に、優しい温もりを感じていたので、手が冷たいというのは変だ。
次は聴覚だけど……聴くとしたら、心臓の音だよね? 医療知識のない俺が、心臓の音を聞いたところで何かがわかるわけでもないけどさ。
とはいえ、調べられることは全て調べようと思い、リアの胸に耳を当て……な、何にも音がしないっ!?
「り、リアの心臓が動いてない!」
「カイちゃん。精霊に心臓は無いわ」
「え!? そ、そうなんだ」
ノエルの言葉で、俺のやっていることが、ただリアの柔らかくて温かい胸に顔を埋めただけみたいになってしまい、少し恥ずかしく……って、待った!
リアの胸は温かいんだ。でも手が冷たくて、意識がない。
これが人間だったら……脱水症状か? 確か、重要な器官に血液が集まるから、末端に血液が届かず、手足が冷たくなるって聞いたことがある気がする。
リアの足は……冷たい。顔や胸、お腹は温もりがある。
「カイ。一体、何をしているの? リアの身体を触って……」
「俺の知っている人間の症状で、水が不足している脱水症状っていう状態に似ていると思って」
「水じゃなくて、魔力が不足している魔力枯渇の状態だから、似ているといえば似ていると思うけど……って、カイ? どうしたの!?」
「そ、そっか! リアは魔力枯渇の状態なんだ!」
どうしてこれに気付けなかったのだろうか。
シルフィに言われて、やっと気付くことができた。