今日の放課後、告白をしよう。
そう意気込み、校門をくぐった。いつもと同じ風景、いつもと同じクラスメイト。何ひとつ代わり映えしていないというのに、決意を固めてからは目に映るものすべてが新鮮に見えた。
自分でも単純な男だと思う。
意気込むといっても、八割勝ち戦だと自負している。嫌われているとは思えないし、今までの言動を考えても、惨敗はしない。ただ二割は、少し自信がない。女の考えることはよく分からないからだ。自分の勘違いということもある。

ただ、当たって砕けてもいいと思う。
あんな美少女に振られるのも、名誉あることだ。良い思い出になる。
そう思わないと、砕けた時メンタルが崩壊してしまいそうだ。

一つ一つ授業が終えていく。
今日の授業はいつも以上に頭に入らない。朱里はというと、真剣に授業を受けている。

どういう告白にしようか、そればかりを考える。
ストレートに、好きだ付き合ってほしい。これが無難だろうか。
それとも、好きなんだ付き合ってくれないか。こういう言い方の方が優しい男だろうか。
奇をてらって、君みたいな女は初めてだ。いや、これは気持ちが悪い。
言葉としては、好きだから付き合ってほしい。これを言いたい。けれどこれを言うにも、言い方がある。優しい漢字で言うのがいいか、それとも真剣さが伝わる方がいいのか。

もじもじと照れたように言うのは、なんだか頼りない男に見えるから却下だ。
やはり真剣に相手の顔を見て、気持ちを込めて伝えることこそ良い男のような気がする。

花束でもあると雰囲気が出ただろうか。でも学校に花束を持ってくることが難関だから、なくて正解か。
大事なのは気持ちだ。好きという気持ちさえ、きちんと誤解なく伝わればそれでいい。

告白する前から悩んでも無駄だな。告白の時になって、言いたい言葉を言えばいい。そうだ。

黒板の前に立ち、早口で教科書を読み進める教員を見つめながら、深呼吸をした。

時間が経つのは早いもので、放課後になったことを考えて過ごしているとあっという間に放課後になった。時計の針が進んでいるのを見る度に緊張していたが、今日一日の授業が終了したことを知らせるチャイムが鳴ったことで、その緊張感は一気に膨張する。

やっと終わった、とクラスメイトが立ち上がり教室から出て行く。
この後カラオケに行こうと騒ぐ女子たちの塊が去っていくと、急に静まり返った。
心臓の音が自分でも分かる程で、立ち上がることもせずただじっと座っていると目の前に朱里が立っていた。

「白井くん、帰ろう」

天使の笑みが今日は一層輝いていた。眩しすぎる。

「う、うん」

一言返事をするにも緊張してしまう。初めて世の中のカップルを尊敬した。こんな緊張を味わいながら成功させてきた人々。しかし、自分はその辺のカップルとは一味違う。なんたって超絶美少女に告白をするのだ。これでもし、万が一成功してしまったら、どれだけの人間に称賛されることになるのやら。

「今日は何かあるの?」
「な、なんで?」
「だってほら、白井くん、今日の放課後空けておいてって言ってたじゃない」
「あぁ、うん。まあ、追々その話は、うん」

並んで教室を出て、靴を履き替えてついさっきくぐったはずの校門を抜ける。
雲一つない晴天で、日光が朱里の顔を白く輝かせる。
美少女に見えるのは顔のパーツが整っていることもあるだろうが、そばかすさえない白い陶器のような肌も要因であると思う。
これだけ紫外線にあたり、登下校しているというのに肌は綺麗なまま。どうしたらそんな肌になるのかと考えるが、きっと努力しているのだろう。生まれつき肌が強いという可能性もあるが、ここまで綺麗なのは努力の成果でもある。

「白井くん、そんなに見つめられると照れるよ」
「え、ごめん」

じっと横顔を眺めていたら、長い睫毛を伏せ気味にして、ふいと顔を逸らされた。
美少女は睫毛も長いのか。爪楊枝が何本か置けそうだ。

指摘されたらもう見つめることはできない。前を向いて時折ちらっと盗み見る。
こんな子に今から告白しようとしているのか。そう思うと、休憩中だった心臓が再び小さく音を立て始めた。

学校から出て十分歩くと、そこはもう人通りが少ない道になる。
栄えているものの、細い抜け道を使うとすぐに閑散とした道にたどり着く。
そこを真っ直ぐ歩いていくと静かな住宅地だ。

今か。今しかない気がする。
静かな場所が一番良い気がする。