自惚れではなく、脈ありなのではないかと思っている。
交際経験はないし、人を好きになったこともないが、これは絶対脈ありだと思う。
そして、朱里も自分のことを好きだ。と、思っているのだが。
数パーセントくらいは自信がない。
冷静になって考えると、自分と朱里のスキルは全然違う。顔の格差や性格の格差を考えると、何故、どうして、そんな疑問が出てくる。朱里に好かれる理由が見当たらない。
学年の中でもかっこいいと言われている男子ではなく、朱里が自分を好きになる理由は何だ。
顔だって普通だし、学力も良いわけじゃない、運動だって並みだ。飛びぬけて才能がある分野なんてない。朱里はそんな幸雄とは真逆で、むしろどうやったら惚れないのかというくらい魅力的だ。
だけどやはり、朱里が自分を見る目はなんだか、熱があるように思う。
この前の、「私と同じ気持ちかもしれない」という言葉も、自分が朱里を好きだと気づいた上での発言なのではないか。
我ながらあのときは雰囲気が出ていたと思う。告白する雰囲気が。
その空気を朱里も察して、その上での発言なんじゃないのか。
そうとしか考えられなかった。
「白井くん、何考えてるの?」
「へっ?」
今日は休日であり、朱里の家で昼食を御馳走になっているところだ。
「あんまり美味しくないかな?ちょっと焦げちゃったから」
「そ、そんなことないよ!」
「そう?じゃあどうして怖い顔してたの?」
「こ、怖い顔してた?」
「うん、してたよ」
「そ、それは、その」
あなたに好かれているのかどうか悩んでました。なんて、言えるわけもない。
「な、なんかすごい、恋人みたいだなって思ってさ!ハハ!」
「恋人?」
箸を持ちながら固まる朱里に、しまったと焦る。
もしかして今のは言ってはいけない言葉だったのでは。
キモイと思われる。世間でいうところのセクハラに該当するのではないか。
冷や冷やしながら次の言葉を探していると、おかしそうに笑い始めた。
「恋人っていうよりは、夫婦だよね」
爆弾発言だった。
夫婦。恋人を通り越して夫婦。すごく良い響きだ。
くすくす笑っているが、よく見ると少し顔が赤い。
これはもう脈ありでしかない。
「じょ、城之内さん!」
「何?」
「あ、の。その…明日の放課後空いてますか」
「放課後?うん、大丈夫だよ。どこか行くの?」
「い、いや、その」
脈ありは確実だと判断した告白をする決意をかためた。
これはもう告白するしかない。むしろ告白しなければ。
じっと見つめていると、本気度が伝わったのか「わかった」と一言返事を貰えた。
「ふふ、楽しみだなー」
「えっ、そ、そうですか」
「なんだろうなー」
嬉しそうに料理を口に運び、笑顔でいる朱里はもう分かっている様子だ。
告白をするとは言っていないから気づいていないかもしれないが。
けれど、こんなに可愛いならきっと告白もたくさんされたことがあるはず。告白をする空気とか、そういったものは経験上悟っているのかもしれない。
それでも自分は男だから、告白をする。
これで振られたらきっと学校に行けない。
「白井くん」
「ん?」
「明後日の放課後は空いてるかな?」
「明後日?うん、何もないけど」
「じゃあ、私に時間を頂戴?」
「えっ、うん、全然いいよ!」
「ふふ、ありがとう」
すごく気になる。しかし何も聞けない。聞いたら今度は逆に明日のことを聞かれてしまう。
「白井くん」
「うん?」
「楽しいね」
「え?」
「ふふふ」
今日はとても上機嫌のようで、いつも以上になんだか可愛い。
いつも天使だけど、今日はより天使感が増している。
「白井くん」
「何?」
「えへへ」
何度も名前を呼ばれ、その度に嬉しそうに笑う。
この生物は本当に同じ人間だろうか。すごく可愛い。
こんな可愛い女の子が存在していいのか。地球上に存在するすべての雌が霞んでしまう。
そんな天使に明日、告白するのか。
そう思うと、先程までにはなかった緊張感が一気に押し寄せた。