最近幸雄は、朱里との関係が割と良いものになっていると思う。話していると、もしかして自分のことを好きなのではないかと錯覚することが多々ある。
脈ありなのでは、とプラスに考えているが実際どうなのだろう。普段の学校生活からして、幸雄以上に仲の良い男はいない。男女含めて自分が一番仲が良いと自負している。
脈ありだと思いたいが、あんな美少女がこんな平凡を好きになるのかという疑問が残る。
それに、一番仲が良い故に距離も近く、朱里にとって甘えたい存在になっているのかもしれない。脈ありだと錯覚したのはそこからきたもので、恋愛的に好きだという意味はない。そういう解釈もできる。
男として好きだから、気のあるそぶりを見せるのか。それとも、仲が良い相手にはあれがスタンダードなのか。謎は解けない。
もしかしたら、と期待しているがすぐに告白はできない。玉砕したら友達ですらいられない。
と、ここまで考えるとどうしても聡里を思い出す。
正直、聡里に恋愛感情はない。幼馴染以上の感情を持っていない。嫌いではないが、じゃあ好きなんだなと言われても少し躊躇ってしまう。気の強い性格は聡里らしさだと思うし、否定はしないが好きというわけでもない。好きか嫌いかの二択を迫られたら、嫌いではないので好きの部類になる。
しかし、本音を言えば、好きだの嫌いだのと区別するほどの興味がない。こう表現した方がすっきりする。
我ながら酷い男だと思う。
「白井くん?」
「…えっ、あ」
悶々と考え込んでいると、箸を持ちながら首を傾げる朱里が視界に飛び込み、昼休みであることを思い出す。
考え事をしながらも右手は箸を持って食べ物を口に運んでいた。
「あ、ごめん。何?」
「大丈夫?さっきから何か考え事してるみたいだけど」
「あぁ、うん、まあ」
「もしかして、聡里ちゃんのことかな?」
「えっ」
「ふふ、当たった?」
「…まあ」
小さいお弁当の中身は空になり、箸や弁当箱を片付けるその動作をぼんやり見つめる。
「…白井くんは、聡里ちゃんが好きなの?」
「いやぁ、そういうわけじゃないんだけど。幼馴染だし、まあ、気にはなるかな」
「そっか。私も幼馴染になりたかったよ」
目を伏せて寂しそうな声で言うものだから、胸のあたりが痛くなった。
「そ、それって…」
「なんてね!白井くんが聡里ちゃんを気にかけてることくらい知ってるよ!」
両手を左右にぶんぶん振ってなんでもない風に装い、明るい声を出す。
しかし、大きな瞳から涙がぼろっと溢れ出た。
「ちょ、城之内さん!?」
幸い、人がいない中庭の隅で昼食をとっていたので泣いている姿を見ているのは幸雄だけだ。
「ご、ごめ…違うの、違うの」
手で拭っても拭っても涙は止まらず、奥から次々に溢れ出る涙を見て、思わず腕を掴んだ。
「し、白井くん?」
「城之内さん、俺…」
目を真っ赤にしてこちらを凝視する姿にドキドキする。
今、このタイミングで泣くなんて、そんなの答えは一つじゃないか。
「俺、実は…」
好きなんだ。
それを言う前に昼休み終了の鐘が鳴った。
なんとタイミングが悪いことか。
「実は、何?」
「え、っと…授業始まるから、教室に戻ろう」
曖昧に笑って誤魔化した。
もしかしたら今がチャンスだったのかもしれない。けれど、なんだか緊張の糸が解けてしまってその先の言葉が言えなかった。
「そうだね、戻ろうか」
次こそ、言えたらいいな。
この時点で、先ほどまで考えていた聡里のことなんて頭から飛んでいた。
後片付けをして二人で教室へと歩く。
「白井くん」
「何?」
「さっきのことだけど。もしかして白井くんも、私と同じ気持ちかもしれないね」
幸せそうな笑みを浮かべていた。
そんな顔を見せてくれるなんて。
「そそ、そ、そうなんだ」
直視できなかった。
同じ気持ちってまさか。
自分の都合よく解釈をするが、間違っていないはずだ。こんなことってあるのか。
「続きはまた今度にしようね」
「う、うん」
幸せ。
その一言に尽きる。