「俺、昔こうやって女の子と話したことあるな」
「....そうなんだ、どんな子だったの?」
「んー、どうって、あんまり覚えてないんだけど」

どう、だったかな。
当時のことを思い出すが、女の子の顔はぼんやりとしか思い出せない。
白いワンピースを着ていて、髪は長くて。

「あぁ、でも、すごく可愛い子だった気がする。確かあのとき、その子の友達が僻んでたような」
「….そうなんだ、白井くんが言うからすごい美少女だったんだね」
「うん、そうだったはず」

それでもやっぱり顔は思い出せない。
それもそのはず、恐らく小学生くらいの時だった。しかも会った時間は一日もない。数時間くらいだったはずだ。
名前ももう覚えていないその子を、何故だか今思い出した。

「どういう話をしたの?」
「えーっと...っていうか城之内さん、俺の昔話楽しい?」
「うん、とっても楽しい。白井くんのことが知れて私は嬉しいよ」
「そ、そうなんだ」

なんだか、照れる。

「で、どんな話だったの?」
「えっと、確かゲームの話とか他愛もないことだったような….」

話した内容は覚えていない。その子が白いワンピースを着て、とても可愛かったことしか覚えてない。

「そうなんだ。でもその子、それだけ可愛いなら悩み事もありそうね。女の子からの嫌がらせとか」
「.....あぁ!そういえば、なんか悩んでたような....そう、自分の性格が悪いだとかで」
「可愛いけど性格悪いんだ、その子」
「いいや、確か違ったんだよな。俺、その子の話聞いて、何言ってんだって思ったもん。性格が悪いんじゃなくてその子の周りの女子が性格悪かったんだよ」

あぁ、なんか思い出してきた。

「へえ、じゃあその子は顔も性格も良かったんだね」

それでも、ぼやっとしか思い出せない。

「まあ、可愛いから許される性格ってあるもんな」
「例えばどんな?」
「そうだなぁ、ナルシストとか。可愛い子が自分のことを可愛いって思うのは当然だし、むしろ可愛い子が自分のことをブスとか言ってたら、ブスに謝れって思う」
「白井くん、結構はっきりしてるんだね」
「あっ、女子はこういう考え嫌なのかな?」
「ううん、少なくとも私は嫌じゃないよ」

良かった。もし朱里が自分のことをブスだと思う系女子だったら、という不安があった。

「城之内さんは?」
「うん?」
「自分のこと、可愛いって思う?」

ただのノリだった。しかし朱里は笑顔のまま数秒固まった。

「そうだなぁ、私は毎日顔のお手入れを頑張ってるから、少しは可愛いって思いたいな」

可愛いとは言わず、可愛いと思いたい。その返しは誰も傷つけず、自慢もしていない、素晴らしい回答だった。

「でも、男の子はこういう答え、嫌いかな?」
「全然。むしろイイ」
「よかった。答えを間違えて、白井くんに嫌われたらどうしようかと思ったよ」

そんなことでは嫌わない。幸雄の朱里へ対する愛はその程度ではない。

「城之内さんを嫌いになるなんて、有り得ないよ」
「ありがとう」

むしろ好き。大好き。一回惚れた女を簡単に嫌いにはなれない。
「嫌われたらどうしよう」というその発言が幸雄の胸に刺さった。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「そうだね」

田舎を懐かしく感じてくれただろうか。
あまり懐かしむと田舎に帰りたくなるかもしれないから、懐かしく感じてほしくない。なんだか置いて行かれるような気がする。

「付き合ってくれてありがとう」
「い、いいよ」

付き合って、の意味が男女交際の意味に聞こえてしまって急に胸が高鳴ってきやがった。
そういう意味ではないと、知っているのに。体は素直だ。