「あんた、あたしが幸雄のことを好きって知ってたわね。あたしが振られるように仕向けたでしょ」
「さぁ、何のことだか」
「とぼけないで!!」

今にも泣きそうな顔でこっちを見る。
朱里の内側は優越感で満たされていた。

「ふふん、感謝してほしいくらいだわ。今まで伝えられずにいたのを私がきっかけを作って、伝えてあげたんだから」
「あ、あんた...!」

そう、その顔。
悔しそうに見るその顔がとても好きだ。

「あんたなんかに幸雄は渡さない!!」

おかしすぎて思わず笑ってしまう。
渡さないも何も、幸雄が好きなのは聡里ではなく朱里だ。

幸雄を見て分かったが、言う程幸雄に好かれていない。
幸雄からは何の感情も伝わってこない。
今日、竹下聡里の家に行くと言った際、朱里の心配ばかりしていた。聡里のことなどちっとも心配してなかった。

「あなた、何か勘違いしてるんじゃない?」
「はぁ?何のことよ」

目の前のこの女を追い詰めたい。完全に敗北する顔を拝みたい。
そして幸雄を手に入れる。一石二鳥だ。

「頑張れば振り向いてくれる、って思ってるんじゃない?そんなの無理に決まってるのに」
「なっ!」

もう無理なのだ。
いくら必死に頑張っても、一緒にいても、幸雄の中で一番仲の良い女の子だとしても、聡里は幸雄の彼女にはなり得ない。

「小学校の頃から一緒にいるんでしょ?何年も一緒にいるんでしょ?それだけ長く一緒にいながら告白もされない、女として見られていないだなんて、どこに脈があるのよ」

図星を突かれ、言葉に詰まる。その顔がとてもイイ。

「私はあなたに何一つ劣っているとことはない。顔だって私の方が可愛い、性格だって私の方が可愛い。当然よ、私はそれだけの努力をしたんだもの」

顔が可愛いのは親のおかげ。でも磨いたのは自分。
性格を偽ることは苦ではない。自分を守る術なのだから。

好きな人の前で、嫌われるかもしれない行為は馬鹿でもしない。

この性格が好かれたものでないことくらい、知っている。
それは今までの女子の反応で分かっている。
幸雄はこの性格を変ではないと言ってくれた。しかしそれでも保身のため皮を被っている。幸雄の反応次第では別の皮を被ろうと思っていたが、どうやら幸雄はこの皮がお気に入りのようだった。

「彼が好きなのはあなたのようなズバズバ物を言う女ではなく、私のような外見も中身も可愛い女の子だったというだけの話よ」
「こ、このッ!」
「図星をつかれたからって怒らないでよ」
「うるさい!!」
「長年の片想いご苦労様。無駄な時間を過ごしたわね」
「うるさいうるさい!」
「彼が好きなのは長年一緒にいたあなたじゃなくて、ついこの前転校してきたこの私なのよ」
「黙れって言ってるでしょ!」

瞳から涙をボロボロと流す聡里は最高だった。
つい興奮してしまう。

「今まで幸雄の隣にいてくれてありがとう。今まで彼女を作らせないでくれて、どうもありがとう。幸雄の一番近くで、他の女から守ってくれて本当にありがとう、あなたのおかげよ」

きっと今、悪女のような笑顔をしているだろう。
嘘は言っていない、すべて思っていることだ。彼を守ってくれてありがとう。

「でも、それももうここまでよ」
「あ…」

朱里はゆっくり聡里の傍に歩みよる。そして聡里の肩に手を置き、至近距離で囁く。

「後は私が全部もらっていくわ。報われない恋を今日のためにありがとう」
「あああっ…」

恋というものは恐ろしい。
人をここまで変えてしまうのだから。

 壊れた人形のように膝から崩れ落ちる聡里を見下ろし、思わずにやける口元を慌てて抑える。
いつか両想いになれると信じて、いつか彼女になれる日を信じて、ここまでやってきたのか知らないけど、いつかでは駄目だ。

恋したその瞬間から行動を移さなければ。すぐに奪われる。
自分が好きになるくらい魅力的な人間なのに、どうして他の女にとられるかもしれないと思わなかったのかが不思議で仕方ない。

泣きわめく聡里を放置し、颯爽と家を出た。

今日はとてもいい気分だ。