「うわっ、あかりちゃんだ」
幸雄と楽しくお喋りをしていたら嫌そうに朱里を呼ぶ声がした。
「うわ、本当だ今日も男子といる」
「男好きなのってやっぱり本当だったんだ」
同じ学校の子たちだった。
こんなのいつものことだし、醜い顔をさらに醜くさせている女子にさほど興味はなく、彼女たちが去るのを大人しく待とうとしていた。
どうせ「あかりちゃんがいるなら帰ろう」「あかり菌がうつるよ」等と言いながら去ってくれるだろう。そう思っていた。
「おいお前ら、その言い方はないだろ。あかりちゃんに謝れよ」
思いがけないことが起こった。さっきまで話をしていた幸雄が立ち上がり、彼女たちに言い放ったのだ。
今まで言い返してくれる男子はいたが、しかしそれらはどことなく彼女たちと楽しそうに言い合っているように見えた。しかし幸雄は違った。本気で彼女たちに嫌悪の色を見せたのだ。
「はぁ?何なのこいつ」
「あかりちゃんの彼氏?」
「うざいんだけどー」
口々に出る子言葉たち。
早く彼女たちがここから去って早く幸雄とお喋りがしたかった。
どうせ彼女たちは僻んでいるのだから。目の前にいる朱里が可愛くて可愛くて仕方がないから、醜い自分を隠すために攻撃しているのだ。あんなの誉め言葉と変わりない。
「お前ら、自分たちがブスだからって僻んでんじゃねーよ。いかにも田舎っぽい恰好しやがって、あかりちゃんとは全然違うな」
幸雄が都会の子であるのは服装を見ればすぐに分かった。
この辺ではあまり買うことができないカッコイイ服を着ている。その都会っ子の幸雄が田舎くさいというのだから、きっと彼女たちは本当に田舎っぽいのだろう。
「はぁ!?あかりちゃんだって麦わら帽子持ってるし!!田舎っぽいのはあかりちゃんも一緒でしょ!」
「別に麦わら帽子が田舎っぽいとか言ってねーよ。ただお前らの着てる服とかすげーださい。そんなのどこで買うんだ?あと、なんか顔もすげー田舎っぽい」
彼女たちにとって田舎っぽいという言葉は侮辱でしかないのだろう。
日々スーパーの隅に置いてある雑誌を立ち読みし、流行りの服を知ってそれに近いものを必死に選んでいるのだから。
幸雄は嫌悪を持って言っているが、その言葉に嘘はない。彼の目には本当に彼女たちが田舎っぽく映っているのだ。
朱里は都会にいる親戚のお姉さんたちにすごく可愛がってもらっているため、可愛い洋服はたくさん送られてくる。
今日着ているのは白のワンピースで、これはお姉さんが「朱里ちゃんは天使みたいだから真っ白がよく似合うね」と言ってくれたためお気に入りのものだ。
「もう!帰ろ!!」
幸雄の田舎攻撃に耐えられず彼女たちは去っていった。
「あかりちゃん、いじめられてるの?」
直球で聞かれ、なんと答えようか迷った。
否定して泣けば彼は助けてくれそうだ。さっきの彼女たちの元へ行ってもう一度ガツンと言ってくれるだろう。しかし彼は所詮都会の子だ。恐らくもう二度と会うこともないだろう。それならば、と思い今まで感じていたことを打ち明けた。
男子が勝手に好意を寄せてくるだけなのに女子は自分のことを男好きと言うこと。でもそれが結構楽しいと感じていること。好きな男子をとられて悔しそうにする女子を見ると優越感を感じること。全部全部包み隠さず話した。
初めてだった、人に話したのは。自分が歪んでいる自覚はあったし大人に好かれる術を知っていた。ありのままの自分を出すと非難されることは分かっていた。だから幸雄に話したのが、初めてだった。
「ショックを受けた?私、性格が悪いんだよ」
誰かに言えてスッキリした。それと同時に全否定する言葉が飛び出ると思ったので変な汗が額から出た。
「何で?別にいいんじゃないの?」
「.....えっ?だって私、性格悪いよ?」
「でもあかりちゃん、可愛いじゃん。可愛いならモテて当然だしそれをひがむ女子はあかりちゃんよりブスなだけでしょ?」
何を言っているの?とキョトン顔をされた。
幸雄は素直だった。可愛い子がモテる、ブスはモテない。その至極当然な考えを持っていた。
「でも私、ざまあみろって思うんだよ。好きな男子をとられて泣く子にざまあみろって」
拳が震える。
「でもそれは、ジゴージトクでしょ?先にあかりちゃんをうらぎったのは女子で、あかりちゃんがざまあみろって思うのだって当たり前じゃん。あかりちゃんは最初に何もしなかったじゃん。ただ男子に好かれて、それで女子から意地悪言われたんだよね。だったらあかりちゃんは悪くないよ」
その瞬間、ナニかが音をたてて崩れた。
自分が良い子でないことを知っていた。自分でも性格が悪いと、自分が他と違うのだ。でも幸雄は違った。悪くないと言ってくれた。
そっか、私、悪くないんだ。私は悪くないんだ。私は間違ってなかったんだ。
自分は、何も悪くない。
「幸雄くん、ありがとう」
肯定してくれた、守ってくれた、優しく包み込んでくれた。
幸雄に恋をした。恋なんて可愛らしい表現に当てはまるか分からない。もっと別の、違う感情も混ざっていたと思う。
「ううん、だって俺はあかりちゃんが可愛いと思ったから」
自分は間違ってない、悪くない。
自分がすること、思ったことは間違ってなんかなかった。
幸雄と楽しくお喋りをしていたら嫌そうに朱里を呼ぶ声がした。
「うわ、本当だ今日も男子といる」
「男好きなのってやっぱり本当だったんだ」
同じ学校の子たちだった。
こんなのいつものことだし、醜い顔をさらに醜くさせている女子にさほど興味はなく、彼女たちが去るのを大人しく待とうとしていた。
どうせ「あかりちゃんがいるなら帰ろう」「あかり菌がうつるよ」等と言いながら去ってくれるだろう。そう思っていた。
「おいお前ら、その言い方はないだろ。あかりちゃんに謝れよ」
思いがけないことが起こった。さっきまで話をしていた幸雄が立ち上がり、彼女たちに言い放ったのだ。
今まで言い返してくれる男子はいたが、しかしそれらはどことなく彼女たちと楽しそうに言い合っているように見えた。しかし幸雄は違った。本気で彼女たちに嫌悪の色を見せたのだ。
「はぁ?何なのこいつ」
「あかりちゃんの彼氏?」
「うざいんだけどー」
口々に出る子言葉たち。
早く彼女たちがここから去って早く幸雄とお喋りがしたかった。
どうせ彼女たちは僻んでいるのだから。目の前にいる朱里が可愛くて可愛くて仕方がないから、醜い自分を隠すために攻撃しているのだ。あんなの誉め言葉と変わりない。
「お前ら、自分たちがブスだからって僻んでんじゃねーよ。いかにも田舎っぽい恰好しやがって、あかりちゃんとは全然違うな」
幸雄が都会の子であるのは服装を見ればすぐに分かった。
この辺ではあまり買うことができないカッコイイ服を着ている。その都会っ子の幸雄が田舎くさいというのだから、きっと彼女たちは本当に田舎っぽいのだろう。
「はぁ!?あかりちゃんだって麦わら帽子持ってるし!!田舎っぽいのはあかりちゃんも一緒でしょ!」
「別に麦わら帽子が田舎っぽいとか言ってねーよ。ただお前らの着てる服とかすげーださい。そんなのどこで買うんだ?あと、なんか顔もすげー田舎っぽい」
彼女たちにとって田舎っぽいという言葉は侮辱でしかないのだろう。
日々スーパーの隅に置いてある雑誌を立ち読みし、流行りの服を知ってそれに近いものを必死に選んでいるのだから。
幸雄は嫌悪を持って言っているが、その言葉に嘘はない。彼の目には本当に彼女たちが田舎っぽく映っているのだ。
朱里は都会にいる親戚のお姉さんたちにすごく可愛がってもらっているため、可愛い洋服はたくさん送られてくる。
今日着ているのは白のワンピースで、これはお姉さんが「朱里ちゃんは天使みたいだから真っ白がよく似合うね」と言ってくれたためお気に入りのものだ。
「もう!帰ろ!!」
幸雄の田舎攻撃に耐えられず彼女たちは去っていった。
「あかりちゃん、いじめられてるの?」
直球で聞かれ、なんと答えようか迷った。
否定して泣けば彼は助けてくれそうだ。さっきの彼女たちの元へ行ってもう一度ガツンと言ってくれるだろう。しかし彼は所詮都会の子だ。恐らくもう二度と会うこともないだろう。それならば、と思い今まで感じていたことを打ち明けた。
男子が勝手に好意を寄せてくるだけなのに女子は自分のことを男好きと言うこと。でもそれが結構楽しいと感じていること。好きな男子をとられて悔しそうにする女子を見ると優越感を感じること。全部全部包み隠さず話した。
初めてだった、人に話したのは。自分が歪んでいる自覚はあったし大人に好かれる術を知っていた。ありのままの自分を出すと非難されることは分かっていた。だから幸雄に話したのが、初めてだった。
「ショックを受けた?私、性格が悪いんだよ」
誰かに言えてスッキリした。それと同時に全否定する言葉が飛び出ると思ったので変な汗が額から出た。
「何で?別にいいんじゃないの?」
「.....えっ?だって私、性格悪いよ?」
「でもあかりちゃん、可愛いじゃん。可愛いならモテて当然だしそれをひがむ女子はあかりちゃんよりブスなだけでしょ?」
何を言っているの?とキョトン顔をされた。
幸雄は素直だった。可愛い子がモテる、ブスはモテない。その至極当然な考えを持っていた。
「でも私、ざまあみろって思うんだよ。好きな男子をとられて泣く子にざまあみろって」
拳が震える。
「でもそれは、ジゴージトクでしょ?先にあかりちゃんをうらぎったのは女子で、あかりちゃんがざまあみろって思うのだって当たり前じゃん。あかりちゃんは最初に何もしなかったじゃん。ただ男子に好かれて、それで女子から意地悪言われたんだよね。だったらあかりちゃんは悪くないよ」
その瞬間、ナニかが音をたてて崩れた。
自分が良い子でないことを知っていた。自分でも性格が悪いと、自分が他と違うのだ。でも幸雄は違った。悪くないと言ってくれた。
そっか、私、悪くないんだ。私は悪くないんだ。私は間違ってなかったんだ。
自分は、何も悪くない。
「幸雄くん、ありがとう」
肯定してくれた、守ってくれた、優しく包み込んでくれた。
幸雄に恋をした。恋なんて可愛らしい表現に当てはまるか分からない。もっと別の、違う感情も混ざっていたと思う。
「ううん、だって俺はあかりちゃんが可愛いと思ったから」
自分は間違ってない、悪くない。
自分がすること、思ったことは間違ってなんかなかった。