城之内朱里が白井幸雄に初めて出会ったのは小学二年生の頃だった。朱里が住んでいた所は田舎で、幸雄とはその田舎で出会った。
幸雄は母か父の実家に遊びに来ていたのだろう。季節は真夏で、その期間は夏休みだった。

朱里は幼稚園のときから可愛かった。皆に可愛い可愛いと言われて育ち、小学校に入学してもそれは止まることはなかった。男子にはよくちょっかいをかけられた。好きな人ほどいじめたい、という男子の事情を母から聞かされたのでそれは好意を上手く伝えられない故の行動なのだと学んだ。朱里は泣き虫やいじめられっ子という性格でもなかったため男子のスカート捲りなどの意地悪は笑顔で逃げていた。追いかけっこ感覚だ。好かれることは嬉しいし、男子に対して特に嫌な感情が沸いたことはなかった。問題は、女子だった。

「わたしの好きな男の子をあかりちゃんがとった」と何度言われたことだろう。まだ小学二年生だというのに女の面倒くささを学んだ。奪ったつもりはない、ただ男子が好きになってきただけなのに。そう伝えたら相手の女の子は泣きわめき、彼女を取り巻く女の子たちは「あかりちゃん性格わるすぎ」と怒鳴った。

じゃあ、どうしたらいいの。自分が可愛いのは仕方なくて、男子は勝手に好きだと言ってくる。どうしろって言うの。さすがに爆発し、そう叫んだら完全なる悪者になった。「自分のこと可愛いって言うなんて」「そんなの自分で考えて」「せんせー、あかりちゃんが逆ギレしてます」「あかりちゃんって男好きなんでしょ」「もうわたしたちに話しかけないで」「皆、あかりちゃんとは友達やめようよ」挙げればキリがない。まるで朱里がすべて悪かったかのように言い返す友達を一生忘れない。

女の子って、なんて面倒なんだろう。
悲しいを通り越して呆れた。

親友だなんだと言いながら結局お前らは男をとるのか。お前らの好きな男なんて知らねえよ。そんなにとってほしいなら死ぬまで奪ってやるよ。豚みたいな面しやがって、まずお前らのその汚ねえ面を何とかしろよ。

冷静になった後、遅れてやってくる怒り。
小学二年生にして、性格がねじ曲がった。

それからというもの、以前より可愛い自分を目指した。誰のためでもない、自分のため。
皆、惚れたら良い。そして歯ぎしりしながら好きな男が奪われる瞬間を見届けなさい。あなたたちが好きだった男子が顔を真っ赤にして言い寄る姿をその目に焼き付けなさい。
それはそれは、楽しかった。実は性格悪かったんだ。女の子が泣きながら悔しそうな顔で自分を睨みつける。優越感があった。

そんな朱里に女子の友達ができるわけもなく、夏休みになると誰一人として遊びに誘ってはくれなかった。男子はたまに誘ってくれたけどこの暑い中出かける気にもならなくて断り続けた。
外へ一歩も出ない娘を気にして母は「散歩でもしてきなさい」と家から追い出した。
この暑い中散歩なんてしたら死ぬに決まっている。
そう思い向かったのは神社だった。田舎なのでそこらへんに小さい神社がある。
神社は木陰により、どこよりも涼しい。麦わら帽子を脱いで木陰で休んでいた。

「あっ」

どこからか声がした。
声のした方を向くと、見慣れない男子が立っていた。

「君、誰?」

見慣れない男子は首を傾げて立っていた。
学校の子ではない。この辺りに学校は二つあるが一方の学校は遠い。ここにいるということは朱里と同じ学校に通っていることになる。が、見たことがない。
同い年、かな。

「君こそ誰?この辺りに住んでるの?」
「違う、おじいちゃん家に遊びに来たんだ」

じゃあ、都会の子か。

「名前は何ていうの?」
「私は….あかり」
「あかりちゃんか、俺はゆきおだ」
「ゆきおくんは何年生?」
「二年生だ」

同い年だった。
幸雄と名乗った少年は木陰で休んでいる朱里の隣に座った。

「あかりちゃんはこの辺に住んでるの?」
「そうだよ、ゆきおくんは都会に住んでるの?」
「うーん、都会、なのかなぁ」
「いいなぁ、私もいつか都会に行ってみたい」

そう言うと、幸雄は自分の生活を話してくれた。
学校にはこういう友達がいて、いつも公園で遊んだり家でゲームをしていると。
ゲームなんて買ってもらえないし、こことは違って公園の遊具も聞いたことのないものばかりで興味津々に幸雄の話を聞いた。
幸雄は朱里の話も聞きたいと言い、お互い笑いが絶えずたくさんお喋りをした。