一時間目が始まる前に聡里の友人である木村が保健室から戻ってきたので、一目散に木村さんに近寄り、話を聞いた。

「聡里、どうだった?」

木村は幸雄が話しかけてくるのを想定していたようで、席に座って話をする。

「精神的に不安定で寝不足もあるから、そのまま寝かせて、起きたら親と一緒に病院に行かせるって先生が言ってた」
「やっぱ俺のせいだな」
「白井くんは自分のせいにしたいの?だったらそれで構わないけど」
「き、木村さん….」
「だって、何だか自分のせいにしたいみたいだし」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ別に自分のせいだなんて思わなくていいじゃん。もしかしたら他に原因があるかもしれないし」
「...そうだね」

ありがとう、と言って自分の席に戻ろうとしたら制服の袖を掴まれた。

「な、何?」
「白井くんは聡里に何かあったか知ってるの?」
「何か、って?聞いてないの?」
「白井くんに告白紛いな事をしたことは知ってる」
「そ、そっか」
「聡里が城之内さんのことすごく嫌ってるように見えたから、最近彼女と何かあったのかと思って」

どう言おうか迷った。
やましいことは何もないが、聡里があんな状態になった原因が朱里かもしれないと思われるのは嫌だった。

「実は昨日、城之内さんと会ったみたいで」
「聡里が?どうして?」
「さぁ、俺もよく分からないけど。聡里から誘ったことくらいしか俺も知らないんだ」
「わたし聡里から何も聞いてない。そっか、知らなかった」
「心配かけたくなかったんじゃないかな」
「多分そうだね。教えてくれてありがとう」
「俺の方こそ、ありがとう」

漸く制服を放してもらい、幸雄は自分の席に戻った。

聡里は今保健室で寝ているが、様子を見に行くのはやめた方がよさそうだ。
暫くは聡里に会わない方がいいのかもしれない。
聡里は一旦冷静になった方がいい。しかし冷静になった後、会ってくれるか疑問だ。
今日のあの状態は、聡里にとっても不覚の出来事だろう。好きな人の前であんな姿を晒したら羞恥や罪悪感で、会いたくないはずだ。

「白井くん」
「城之内さん、何?」

机をぼんやり見ながら考え込んでいると、朱里が心配そうに話しかけてきた。

「聡里ちゃんの話をしてたの?どうだった?」
「今は保健室で寝ているみたいだ。精神的に不安定らしい」
「そっか、やっぱり昨日会いに行くべきじゃなかったね」
「そんなことないよ」
「精神的に不安定ってことは、私の発言が追い込んだってことも有り得るし…」

昨日のことは詳しく聞いていない。
聡里と朱里がどんな話をしたのかまったく見当がつかない。
聡里は「罵られた」と言っていた。喧嘩でもしたのだろうか。

「あんまり昨日のことは詮索しないでもらえると嬉しいな」
「え、う、うん」

ありがとう、と頭をかく朱里はやはり可愛い。
もし喧嘩だったとしても、自分が立ち入っていいものか分からないし、ここは見守る選択が正しいのかもしれない。

「でも、そっか、聡里ちゃん精神的に不安定なのね….」

そう呟いた朱里の表情はどことなく嬉しそうに見えたので、目を擦って再び見ると、眉を下げて心配そうな表情を浮かべていた。