ハインリヒ・ローレンスは激昂していた。
 状況報告をするために執務室に入ってきた兵士たちに激を飛ばす。

「なぜおめおめと逃げ帰ってきた!」

 ハインリヒが叱責すると、兵士たちは覇気をなくしてうつむいた。目立った外傷はないものの、瞳にも躰にも活力というものが感じられなかった。

「皇女殿下がおられたのであろう!? 何故、お守りしなかった!」
「…はっ、それが、皇女殿下は魔族どもを、擁護する態度をとられて、おりまして…そして、突如得体のしれぬ力により、機体が制御不能となったので、ございます。我々も、その…なんと仰ればよいか…」
「だから、命からがら逃げてきたと?」
「申し訳…ございません! それから、黒翼の王が現れ、皇女殿下を庇いたてるようにしたのち、我々のみを森の外へと排除いたしました」

 堅実な性格をしているハインリヒであったが、この時ばかりは苛立ちをあらわにした。

(何故、皇女殿下が忌々しい黒翼の王と…!)

 ハインリヒにとって、エレノアは高潔で清らかな存在であった。まるで女神そのものであるように、誰にも汚されてはならない存在であった。幼き頃から憧れ、慕い、月に一度の祈り日にはかかさずに出向いていたほど。
 伴侶候補には己こそが相応しいと考えていた。敬虔なエレノアを支え、時に守り、より強固なサンベルク帝国を築き上げてゆくものだと思っていた。

 だが、そのエレノアがハインリヒの誘いを断った。軍人の若長であるハインリヒよりも、辺境の地の少年を優遇し、極めつけには処遇を不問にしろとの命を下した。ハインリヒには甚だ理解ができなかった。
 女神オーディアの加護を授からない辺境の地の民など、高貴なエレノアに相応しくない。ましてや、魔族の王などと――。

「私は、認めぬぞ…」

 忌々しい!
 忌々しい!
 忌々しい魔族の王!

(あのお方は、私の伴侶となるのだ…!)

 エレノアは心優しい。だから、口車にのせられて妙な影響を受けてしまったに違いない。もしくはなんらかの弱みを握られて、魔族の王に脅迫をされているのやもしれない。そうでなければ、甚だ可笑しい話だ、とハインリヒは急いた。

「私が、目を覚まさせてやらねば」

 だが、策はある。
 ハインリヒは瞳に執着の炎を燃やし、伝令を告げた。