「~っ、馬鹿野郎! あんな兵器に、一人で立ち向かう阿保がどこにいるんだよ!」
「フィーネ…」
「死んじまうかと思ったじゃないか! 人間だって分かってても、エリィを失うことが怖かった! せっかく、せっかく友達になれたのに!」
「うわあああん、エレノアお姉ちゃーん!」
「くっ、苦しいぞ! ガキども、離れぬか!」

 エレノアを取り囲んでいた魔族たちの緊張も解けていく。そこに憎しみの感情はなかった。
 エレノアが身を呈して魔族の民を守護したことが確固たる証明であった。

「皆の者! 我らの里は、人間のエレノアが守ってくれたぞ!」
「……ありがとう! エレノア!」
「人間だけど、あなたは好きよ!」

 しばらく呆けてしまうほどに、そこら中から熱烈な声援が聞こえてくる。エレノアはたまらずに目頭が熱くなった。
 フィーネはひと呼吸置くと、あらためて深妙な面持ちで口を開く。

「それにしても、本当に大丈夫なのかよ。あの兵士たちを逃がしちまって。そうしたら、エレノアは…」
「エレノアお姉ちゃん、もうイェリの森には来られなくなっちゃうの…?」

 哀惜を帯びた目で見つめてくるフィーネとベスに、エレノアは曖昧な笑みを浮かべた。

「分からない。でも、ちゃんと説得をするつもりよ」
「そんなのやだ! ずっとここにいてよ!」
「…そうね、そうしたい気持ちは山々なのだけれど、それではあなたたちを救うことができないわ。かえって迷惑をかけてしまうことになる。それに、帝国の中にも目を背けてはならない問題があるって気づいたの」

 エレノアの脳裏に浮かんだのは、ニールの靴磨きの少年ナットであった。
 もし女神オーディアの加護そのものが関係しているのならば、エレノアが変革をしなければならない。もちろん、フィーネやベス、それにオズとこのままずっと一緒にいられたのならと思わなくはなかった。

「じゃあ、せめて今晩だけはいてくれよ! 頼むから!」
「えっと……」
「それならいいだろ? あのクソ兵器を撃退した勝利の宴、主役のエリィがいなくちゃはじまらないだろ!」

 エレノアが落胆していると、すかさずフィーネが肩を組んでくる。とっさにオズを見やると構わないといった具合であった。
 エレノアが帰還しないことでキャロルやターニャが心配をするだろうことは分かっていた。だが、今後しばらくは自由に赴くことができなくなることを考えると、エレノアの中の天秤は大きく揺れた。

 このひと時だけ我儘を言っても、女神オーディアは怒らないだろうか。心の中で唱えると、女神オーディアは寛容な様子であった。
 ベスに手を引かれて、広場の中へと連れられていく。エレノアは観念をして、崩壊した建物の修繕を手伝った。