「ご機嫌よう。オズ」

 その日もクスノキが生えている小川の畔にたどり着くと、川辺に佇む黒い王の姿があった。
 ヒカゲ草の中で深い森の先を見据えているオズは、愛馬から降りたエレノアへと横目を向ける。

「こう何度もやってくるとは、懲りぬ女だ」
「もう、好きにしろといったのはあなたよ?」
「……そうだった」

 微動だにしない表情であったが、エレノアを拒絶していない。

(もしかして、出迎えてくれたのかしら…)

 満月のように輝く瞳を前に、エレノアは胸をどきどきさせる。
 心が肩時も離れられない。離れがたい。その痛みを癒してあげたい。エレノアの意識の中でかすかに感じる女神オーディアも、それを嫌がってはいない。
 魔神デーモスの生まれ変わりの魔族の王だとしても、何故か拒んではいない。

 オズはしばらくエレノアを見据える。光る鱗粉をまき散らす蝶が視界を横切った。