サンベルク帝国の皇女エレノアが伴侶候補探しのため、離宮の外に出るようになったという話題は、瞬く間に王都中に知れ渡ることとなった。連日、エレノアのもとには我こそはと言わんばかりに男たちが侍った。

 ここ数日は、宮殿の前にはエレノアに謁見すべく男たちの行列ができるほどである。
 これも皇女の務めであると自覚はしていたが、休む間もなく来訪者の接待に追われていたため、エレノアは疲弊していた。

「エレノア皇女殿下、お気に召す男性はいらっしゃいましたか?」

 自室で紅茶を飲んでいると、女官長であるキャロルが声をかけてくる。

「皆様、素敵な方だと思うのだけれど」
「あらまあ、ただのお一人も? ハインリヒ様からは本日も素敵な薔薇の花束が贈られてきましたよ」

 楽しそうに両手を合わせているキャロルを見て、エレノアは紅茶を吹き出しそうになった。
 ハインリヒからは毎日何かしらの贈り物が届く。素敵な便せんには赤面するような愛の言葉が添えられていて、とてもじゃないが恥ずかしくて読めたものではなかった。