魔族の里の城内から持ち帰ったヒカゲ草は、夜になると眩い光を放った。エレノアはそれを滞在先の自室の窓辺に飾り、空に浮かぶ月とともにオズの顔を思い浮かべる。
 エレノアはこれまでも、伴侶候補として名乗りを上げてきた男たちから贈り物をしてもらうことは多くあった。だが、そのどれもが高級品であり、正直身に着けるのも憚られていたのだ。

 宝石や上等なドレスよりも、このヒカゲ草の贈り物がなによりもうれしいと思った。オズが大事に育てているものを分けてもらえた。その事実に、エレノアは胸が弾む思いであった。

(オズは、このヒカゲ草をどんな風に育てていたのかしら)

 目を閉じ、幻想的な森の中に佇む王の姿を思い浮かべる。

 日がたつごとにオズを知りたくなり、日暮れの時がくることが口惜しくなる。エレノア、と名を呼ばれるのが心地よい。明日はどのような会話をしようものか、と夜寝る前に考えることが日課になった。

(もっと寄り添えたら、どんなにか――)

 きらきらと輝くヒカゲ草を指でやさしく触る。

(私も、彼のように堂々をありたい。胸を張れるような、生き方がしたい)

 闇夜に浮かぶ月を眺めて、オズの瞳を想起する。エレノアは数刻の間ぼんやりと物思いにふけったが、眠気に誘われると寝台に横になったのだった。