返ってきた言葉に顔を上げると、じっとこちらを見つめる彼と目が合った。その優しげな視線が、話してごらんと私を促している様に見えて、私は自然と話を続けていた。
「……私、桜って言うんです。両親が初めて出会った時に、お互いに運命を感じたらしくて。それが満開の桜の木の下だったから、子供に桜と名付けたそうです」
「へぇ。なんかすごいね」
「ね。大事な思い出だからって、小さい頃からずっと聞かされてきたんです。だから私も絶対運命の人と結婚するんだって、ずっと思ってて……」
そして、運命の人に出会えた。そう思ったのに。
「……どうやら違ったみたいです。私も、もう終わりかな」
「……」
「待ってた所、彼が指定した待ち合わせ場所で、近くに桜が綺麗で有名な公園があるそうです。一緒に行けると、思ったのに……」
「……」
私にとって、運命という言葉は素敵な言葉だった。自分の名前の由来になるくらいなのだから、きっと私もそうなれるって、出会えるんだって、信じていたのに……現実は残酷だ。こんなものはただの夢物語だった。だから今までずっと相手にされなかったのだ。運命なんて言葉は、安くて陳腐な人を騙す為だけの言葉だった。
「じゃあ、今から行ってみる?」
「……え?」
「その公園。まだ咲いてるよね?」
急にそんな事を言いだした彼はスマホで調べ始めると、よし行こう!と、お会計を済ませてお店を出るので、訳も分からないまま慌てて私も彼に続いてお店を出た。