人が来ては去り、また来ては去り、時計台の前でずっとひとりぼっちなのは私だけだった。

 みんな幸せそうだった。出会った瞬間、待っていた人は皆、今まで纏っていた空気を変えるのだ。柔らかな空気で待ち人を迎え入れるその姿が、今の私にはすごく羨ましく見えた。
 あれから五時間が経ったけれど、いまだにケイタさんからの連絡は無い。流石の私も五時間ここに立っていた訳ではなく、途中でお昼ご飯を食べに行ったりなんかもしたけれど、それでもやっぱり待つには長い時間だった。
 
 一回でも連絡が来れば良いのにな。そしたらあの作戦が使えるのに。連絡が来るとしたらきっと夜になると思う。いつもそうだから。じゃあ私は夜までここに居るの? ……そこまでする必要、ある?
 そもそもの話。私達の間に常識的な信用なんてものは始めから無かった。だって全てがマッチングアプリ内での事だから。その外側に私達の繋がりは無い訳で、向こうが本当に存在するのかすら分からない。ずっと疑っている状態。そんな関係に縋りたい自分。

 人であればまだ良いけれど、本当に人ですら無かったら……。

 ……私、こんな所で何やってるんだろう。

 辺りが暗くなってきた。夕方になり、もうすぐ夜が来る。街灯がついた時計台の前に照らし出されたのは、惨めな私の姿だった。

「嘘でしょ? まだ居るの?」

「!」

 ——ケイタさん?!

 来てくれた!と、慌てて顔を上げると、そこに居たのは午前中に帰宅したはずの彼。

 ……私の待つ、ケイタさんでは無かった。