「あの……すみません」

 声を掛けると、隣の彼はハッとしてスマホから顔を上げた。彼と目が合う。

「えっと……ケイタさんですか?」

「は?」

 目を丸くして、意味が分からないといった表情を全面に出した彼に強めに聞き返されてしまった。あ、これは違うやつだとすぐに察する。

「あ、いえ。すみません、間違えました……」

「え? いや、え? なんで俺の名前知ってんの?」

「すみません……え?」

 お互いびっくりした顔で固まって、え? え?と繰り返していたけれど、その反応を見て、返ってきた言葉から考えて、やっぱり違う人なのだと再度確信する。だって黙ってるつもりなら同じ名前だなんて言う訳がない。

「あ、えっと、待ち合わせ相手の名前がケイタさんで……すみません。偶然同じ名前の人違いでした」

「あ、そういう事。いえいえ全然」

 それからまた彼はスマホに視線を戻して、そこで会話は終了した。
 そのままじっとその場に佇む私と彼。また前回と同じように横並びで待つ事になるのだろうか……話しかけてしまった手前、少し気まずい。時計に目をやると集合時間を過ぎた所で、やっぱりケイタさんからの連絡は無かった。